2022年5月18日水曜日

緑色光で生育促進から病害防除、品質向上まで トマトやイチゴなど多品目で効果

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山口 亮子

ライター:

緑色光で生育促進から病害防除、品質向上まで トマトやイチゴなど多品目で効果

イチゴの炭疽(たんそ)病やイチゴやトマト、キュウリの灰色かび病、ホウレンソウやレタスの立ち枯れ病など、さまざまな病害に防除効果を発揮する光が緑色光だ。ほかにハダニの防除や、生育促進による増収、品質や日持ちの向上など、さまざまなメリットが明らかになっている。

  

緑色光で病害抑制効果? 減農薬栽培に役立つ技術開発

「緑色LEDを使って栽培すると、イチゴの花数が多くなり収量も多く、病害やハダニの発生もほとんどありませんでした」
「オオバの病害である斑点病が半分に抑えられ、病害抑制効果を実感しています。労力がかかる防除作業も半分に軽減されました。電照作用もあり、生育も良好です」

全国各地の生産者からこんな声を寄せられているのが、緑色LED電球「みどりきくぞう」だ。四国電力株式会社の子会社である株式会社四国総合研究所(香川県高松市)が開発した。みどりきくぞうの開発者で、同社の電子アグリ技術部アグリバイオグループ長を務める工藤(くどう)りかさん(冒頭写真右)が解説する。

「減農薬栽培に役立つ技術開発をしたくて、電気を使って病害を抑えようと考えました。可視光の中に植物の抵抗性を引き出す作用がないか調べたところ、緑の光にその力があると分かったんです」

研究を始めた2005年ごろ、四国では高温多湿の環境下でイチゴの炭疽病が多発し、病斑が生じたり、株が枯死したりしたため問題になっていた。IPMと呼ばれる総合的病害虫・雑草管理(※)の一環として、農薬散布を抑えつつ、環境にやさしい防除技術を開発できないか。そう考えてたどりついたのが緑色光の照射なのだ。

※ 病害虫や雑草など農作物の生育に害をもたらすものの防除を、農薬のみに頼らず、あらゆる技術を総合的に組み合わせて行うこと。

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植物はストレスを受けると、さまざまな生体防御反応を起こす。緑色LEDの照射も、病害への抵抗力を高めるストレス刺激になると分かった。具体的には、作物に抗菌物質を作らせたり、細胞壁を硬くしたりする効果がある。緑色光はそれまで植物にあまり利用されないと考えられ、注目を集めることはなかったが、工藤さんたちの研究で病害への抵抗力を高められると明らかになった。

実際、炭疽病の病原菌を接種した苗で実験をすると、緑色光を当てた苗は病斑の発生が抑制された。炭疽病にかかったイチゴの株の周囲に健康な株を置いて、広がり方を調べる実験を行った。何もしないと炭疽病が広がってしまったが、緑色光を当てると周囲への伝染がそれなりに抑えられた。

「実際の圃場(ほじょう)で行った実験では、緑色光を当てた株は当てない株に対し発病率が3分の1から2分の1に抑えられました」(工藤さん)

資料提供:四国総合研究所

その後、緑色光の防除効果はイチゴの炭疽病に限らないと分かってきた。現状では下の表の品目と病気に対し効果が確認されている。

資料提供:四国総合研究所

ハダニ防除に品質向上、生育促進、省エネも

こうして四国総合研究所は2011年、緑色LED「みどりきくぞう」を商品化した。一般的な電球と同じ形状で、E26サイズの口金に対応していれば取り付け可能。白熱電球などを使っている電照栽培施設なら、電球を交換するだけで使うことができる。電球には防水機能もあるので、露地栽培での使用も可能だ。いま全国の園芸施設で導入が進んでいる。

その効果は、病害防除にとどまらない。まず、ハダニ防除の効果がある。ハダニの天敵であるミヤコカブリダニを誘引する作用があるからだ。次に、品質向上だ。特にトマトは日持ちが良くなり、抗酸化作用のあるリコピンの含有量が増え、うまみ成分のグルタミン酸の含有量も増えて食味が良くなるという。さらに、生育促進効果もあって、特にニラで冬期の収量が増える。一般的な電球のように電照の作用もある。

資料提供:四国総合研究所

なお電照作用の点で、赤色に反応しやすいキクは、緑色光だけだと効果が不十分という。そのため、電照作用の高い赤色光と緑色光を組み合わせたキク電照栽培用LED電球「みどりきくぞうGR」も開発・販売している。この電球は、トルコギキョウやヒマワリなど花き栽培の電照にも利用できる。

みどりきくぞうは、省エネ効果も高い。市販の白熱電球と比べておよそ85%、蛍光灯と比べておよそ62%の節電効果があるため、2019年度省エネ大賞の審査委員会特別賞(製品・ビジネスモデル部門)を受賞している。

みどりきくぞうを手にする工藤りかさん

「栄養価コンテスト2021」でトマトが最優秀賞に

なお、みどりきくぞうの価格は1個5000円ほどで、決して安くはない。ただし工藤さんによれば「10~20%の増収になると、導入して2年で元は取れる」計算だ。価格の引き下げも検討しており「2022年度にも低コスト化を実現したい」という。

みどりきくぞうを使ったブランド化の動きもある。一つは、四国電力グループの四電工アグリファーム(徳島県吉野川市)でトマトを栽培、「GREEN BIRTH」というブランドで販売を始めたこと。リコピンやグルタミン酸の含有量が多いこと、果実の鮮度保持に優れていることをうたっている。

もう一つは、愛媛県西予市のフローラルクマガイだ。みどりきくぞうを使ったトマト栽培を2019年に始め、「くまさん農園うるるんトマト」というブランドで販売している。このトマトは2021年、一般社団法人日本有機農業普及協会が主催する「栄養価コンテスト2021」の春夏ミニトマト部門で最優秀賞を受賞した。抗酸化力が平均の倍近くあり、「トマト独特の甘みとうまみ、風味が強く、香りも広がって非常においしい」と評価された。

「今後、農業は減農薬の方向に進んでいくはずです。IPM技術の一つとして、こういった光を他の技術と組み合わせながらぜひ使ってもらいたいと思っています」
工藤さんはこう期待を込める。

四国総合研究所の中では、みどりきくぞうを使って、一風変わった作物を栽培している。

四国総合研究所内のハウス

「みどりきくぞうや加温のためのヒートポンプ、当社で開発したIoTを使った栽培環境モニタリングシステム『ハッピィ・マインダー』を組み合わせて、亜熱帯果樹のライチを栽培しています」

電子アグリ技術部長を務める松浦芳彦(まつうら・よしひこ)さん(写真左)がこう説明する。2015年に苗木の栽培を始め、2020年から収穫を開始した。国産ライチは輸入品に比べて鮮度が高いのが売りだ。加えて、みどりきくぞうを使って減農薬栽培することで、より付加価値を高めている。収穫したライチは徳島県内のカフェに提供し市場評価を行ってもらったところ、カフェの利用客から鮮度も味も高く評価された。

緑色光を使ったビジネスは、今後一層拡大しそうだ。

みどりきくぞう(株式会社四国総合研究所)
https://www.ssken.co.jp/service/midori.html

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