水曜インタビュー劇場(澤円公演)
水曜インタビュー劇場(澤円公演):
「仕事の結果がでないなあ。やっぱり、会社の商品が悪いよ」「上司や同僚との関係がうまくいかない。コミュニケーションがうまくとれないのは、相手にも問題があるはず」――。
このような「思い込み」をしているビジネスパーソンも、多いかもしれない。私たちの仕事や生活のなかには、さまざまな思い込みが存在している。できない理由を見つけて、「だから無理なんだよ」といった思考に注意を促している人物がいる。1997年にマイクロソフト社(現・日本マイクロソフト社)に入社して、テクノロジーセンターのセンター長などを務めた澤円(さわ・まどか)氏である。
マイクロソフト社では数多くのプレゼン経験を積み、2006年には世界中の社員の中で卓越した人のみに、ビル・ゲイツが授与する「Chairman’s Award」を受賞。19年10月にコンサルティング業務などを手掛ける「圓窓(えんそう)」を創業した澤氏は、なぜ「思い込み」に警鐘を鳴らしているのだろうか。そして、思い込む前に「あたりまえ」の呪縛から逃れ、「疑う」ことから始めることも大切だと訴えている。
その言葉の裏には、どんな意味が込められているのだろうか。ITmedia ビジネスオンライン編集部の土肥義則が、澤氏に話を聞いた。前後編でお送りする。
土肥: 澤さんは著書『「疑う」からはじめる。 これからの時代を生き抜く思考・行動の源泉』(アスコム)の中で、「過去のルールや価値観は、絶対に時代遅れになる」と指摘されています。上司の言動に対して、ビジネスパーソンの中には「ああ、この人は成功体験に縛られているなあ」と感じている人もいると思うのですが、この成功体験に縛られていることについてどのように感じていますか?
澤: 若いころの成功体験がいまだに通用するなんて、あり得ないと思うんですよね。その成功体験が100としたら、いまも通用することなんて0.001もないと思う。例えば、1995年、日本でインターネットが普及したわけですが、その前後ではいかがでしょうか。その前の成功体験なんて、ほぼ意味がないですよね。では、2008年に日本でiPhoneが販売されたわけですが、その前後ではいかがでしょうか。スマートフォンの普及によって、その前の成功体験も通用しなくなった部分がたくさんあったのではないでしょうか。さらに、SNSの登場によっても、その前後で大きく変わりました。
もちろん、インターネット、スマホ、SNSがすべて正しいわけではありません。ただ、これらの出来事によって、地球の裏側に住んでいる人たちが何を考えているのかが瞬時に分かるようになってきました。世の中がいわば“リセット”されたにもかかわらず、それ以前の成功体験をいまだに引きずっていて、またそのことに気づいていない上司というのはいかがなものか。
インターネット、スマホ、SNSによって、さまざまな人がいろいろな考えをもっていることが分かってきたのに、そのことを理解しようとせずに人材採用をしようとするとどうなるのか。以前の成功体験を重視して、「履歴書はやっぱり手書きでなければいけない。手書きをみれば、その人の人柄が分かる」といった上司がまだいるんですよね。しかし、本当にそうなのか。手書きによって、その人のどんなことが分かるのか。もし分かるとすれば、その上司は“エスパー”ではないでしょうか(笑)。
土肥: 「マネジメントは管理することだー」といった上司もいますよね。これも成功体験に縛られているのかもしれません。
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危険な上司の特徴
澤: 僕は「管理」という言葉が大嫌いなんですよね。管理はマネジメントのことではないですし、管理職もマネージャーのことではありません。そもそも管理なんてものは人間がやるよりもAIがやったほうが精度が高い。というわけで、いずれ管理職という仕事はAIが取って代わるはず。
ここでやっかいなのは、マネジメント能力がないのにもかかわらず、マネージャーになる人が多いこと。「オレが若いころはこうやっていた。だから、こういうやり方をしろ」といった命令をする上司は非常に危険。こうした発言をすることは、先ほど申し上げたように過去の成功体験に縛られているわけですが、なぜそのことに気づかないのか。
現在、管理職になっている人の多くは、会社に就職して10年、15年が経っているはず。そういう人たちの成功体験は、いつのことなのか。SNSが登場する前、スマホが普及する前の人も多いはず。世の中の価値観が“リセット”されたにもかかわらず、その前の話を持ち出して「オレが若いころは……」といったことを言われても、それは使い物になりません。
土肥: では、マネージャーはどのような仕事をすればいいのでしょうか?
澤: 学校の「学級委員長」と言えば、イメージしやすいのかもしれません。学級委員長だからといってエラいわけではなく、クラスの中の一人の生徒が役割を果たしているだけのこと。司会をしたり、修学旅行のときに点呼をとったりするかもしれませんが、一人の生徒であることに変わりはありません。
このように考えると、学級委員長はエラくはないのに、会社のマネージャーになると「自分はエラい」と勘違いしている人が多い。「オレの言うことを聞かない部下は、失礼な奴」といったワケの分からない定義をして、妙な権威主義が生まれている。でも、これってただの思い込みではないでしょうか。
土肥: 澤さんはマイクロソフトの時代に管理職になられているわけですが、マネジメントはどのようにしていたのでしょうか?
最悪のマネージャー
澤: 僕は「管理職」という言葉を絶対に使いませんでした。そして、チームのメンバーにはこのように言っていました。「管理なんて絶対にしないよ。管理は自動化するよ」と。なぜこうしたセリフを言えたのかというと、マイクロソフトでは管理業務が自動化されていたことが大きかったから。ということもあって、マネジメント職に集中できる環境がありました。
マネージャーになるとき、ある人はこのように言ってくれました。「ビル・ゲイツの『Chairman's Award』を受賞したことは、絶対に言うな。それを口にすると、メンバーは何も言えなくなるからな」と。僕自身も口に出すつもりはありませんでしたが、その人のアドバイスもあったので、絶対に言わないことを決めました。
では、マネージャーの仕事とは何か。いろいろな意見があるかと思いますが、個人的には「メンバーが全力疾走できるように、その道を先回りして、片づけておくこと」だと思っているんですよね。全力疾走できるように、マネージャーが準備しておけば、パフォーマンスは向上する可能性が高い。邪魔になる石があればひろって、道が凸凹していれば整備する。こうしたことをやることがマネージャーの仕事ではないでしょうか。
土肥: 一方、最悪のマネージャーは?
澤: メンバーが「さあ、全力疾走しようよ!」と言っているときに、後ろから「ところで、あれどうなったかな?」と声をかけること。そんな声をかけられると、メンバーは立ち止まらざるを得ません。
例えば、ビジネスの世界で「報連相(ほうれんそう)」という言葉がありますよね。報告をさせるために膨大なレポートを作成させたり、連絡を対面で行うために時間を浪費していたり。よーく、考えてみてください。「報告」と「連絡」は過去から現在までのすでに起きたことについての話ですよね。こうしたことって、ITツールを使えば自動化できるので、どんどん効率化すればいい。
データは、見れば分かる。にもかかわらず、そのためにわざわざ時間を使って、人を集めて報告することにどんな意味があるのでしょうか。出席者はその会議のために、時間をとられるだけでなく、移動もしなければいけません。コロナ以降、テレワークが広がったこともあって、この考え方に変化が出ているようですが、まだまだ「会議は対面で」という考え方は根強いのではないでしょうか。
そういったことに時間を割いていれば、メンバーの全力疾走を邪魔していることになる。「あれはどうなっているの?」「オレは聞いてないぞ」といったコミュニケーションが生まれるわけですが、このようなことを言うマネージャーは、即座にその職を降りたほうがいい。経営者はそうしたマネージャーがいることを見つけたら、すぐに降ろしたほうがいい。でなければ、全体のパフォーマンスが上がりません。
Whyではなく、WhatとHowで聞く
土肥: 「報連相」の報告と連絡は非効率なので、自動化したほうがいいということですが、相談はいかがでしょうか?
澤: 「相談」は未来の話になりますよね。この部分は対面で話をする価値があると思っていて、未来のことを最大化するために働くことが重要なのではないでしょうか。
メンバーが全力疾走していて、ある人が転んだとき、最悪のマネージャーはこのようなことを聞くんですよね。「なぜ、転んだの?」と。でも、転んだことは仕方がないですよね。石があったかもしれないですし、道が凸凹していたかもしれません。でも、転んだ人が何かを言ったら、最悪のマネージャーは「言い訳をするな」と説教するんですよね。
土肥: 石があることを予見して、そこは飛び越えろ! なんて無理ですよね。エスパーではないので(笑)
澤: メンバーの誰かが転んだとき、マネージャーは何を言わなければいけないのか。「なにがあったのか?」と。Whyで聞くのではなく、WhatとHowで聞かなければいけません。そうすると、転んだ人も「石につまづいてしまって」と説明ができるんですよね。これに対して、マネージャーは「ごめんなさい。石があることに気づきませんでした」と言わなければいけません。先ほど申し上げたように、マネージャーの仕事はメンバーが全力疾走できるように、その道を先回りして、片づけておくことなので。
マネージャーの仕事は「How can I help you? “どうやったらあなたを助けることができますか”」といったことを口に出して、実際に行動できることが大切だと思っています。
土肥: ふむふむ。そのようなことを指摘されると、「よし、オレもワタシも今日から“How can I help you?”の精神でマネジメントしていくぞ~」と思っていても、いつの間にか「Why can't you “なぜできないのか” Why,Why,Why?」と問い詰めてしまう人もいると思うんですよね。それはなぜですかね?
結果を出すビジネスパーソンの特徴
澤: Whyで聞けば、答えを速く引き出せて、相手を説得できると思っているからではないでしょうか。でも、受け取った側からすれば、そのようには思っていない。説明しても、「言い訳をするな」と言われてしまうと、その後どういったことが起きるのか。失敗したことを隠し始めるんですよね。
そうなると、組織はどんどん悪い方向に流れてしまう。メンバーの心理的安全性が担保されていない状況になると、会社をダメにしてしまう。繰り返しになりますが、経営者はこうしたマネージャーが存在していることを知れば、すぐにその人を外したほうがいいですね。
土肥: 「相談」は基本的に未来の話になるので、話をしていても楽しいですよね。楽しい話になれば、その人のモチベーションが上がるはず。
澤: 結果を出せるビジネスパーソンに、共通していることがあるんですよね。それは「未来志向」を持っていること。報連相の相談は「ゼロをイチにする」ことになるので、未来をよくするために時間を使うことは必要なのではないでしょうか。
このような話をすると、「過去に学ぶことは一つもないのか?」といった指摘がありますが、過去から学ぶことはたくさんあります。しかし、過去の出来事そのものが変わることはありません。過去に起きたことにたくさんの時間を使うのは、とてもムダだと思っているのです。
ですので、「報告・連絡」のための会議には出ないと決め、時間は未来のためだけに使う――。こうしたマインドセットが必要になってくるのではないでしょうか。
(終わり)
現場のプロジェクトチームは縦組織ではなく、ヨコ串チーム。できない管理だけしている人はいらん。足引っ張る。そんな奴に仲間意識なんて無い。
だからパソコンやネットを使えなくても居座ることができる
アメリカでは創業者でも会社を追い出されますが
日本企業の上層部は共産主義のように安全地帯で居座ることができます
貴族が戦場に立って命を落とさなくなったのです
とても参考になりました。
指揮している人の大半が、高度成長期とバブル期の経験が頭にあるように思います。
また「なぜなぜ分析」が流行ったので、「なぜ?」を使いたがる人も多い気がします。
常に変わったり新しいことに挑戦したりしないと長期的には崖っぷちなのに、挑戦1つ1つはたいてい失敗する。だから人は挑戦できないし組織は挑戦する人を捨て駒にする。マイクロソフトもWindowsやイルカに固執していた時期がありますね。
「変化に挑戦した結果の失敗に最大級の評価を与える組織にするには」という古くて新しい答えのない問題ですよね。失敗が企業を破滅させることもあるわけですから。日本だけじゃなくてアメリカも含めて全ての個人や組織に共通する問題。
しかし、最近のパターンでは、若い方も解らないことを上に聞くのが面倒で、確認せず「出来ないですねえ。」と、クライアントに断り、受注を逃し、何もなかったことにする場面も見かけます。
一般的に
マネジメント:成果を上げる仕組みと方法
管理:ある基準から逸脱しないための統制。事が目的通り進むための作業・処理、及びハードの維持。
管理の“基準”に成果を上げる仕組みと方法、そして“目的”に成果を包含していれば言葉上の問題はない。
問題なのは、管理の中に「顧客満足」や「成果を上げる」等の目的を入れていないことでは?
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