https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02340/061900012/
2024年5月、富士スピードウェイ(静岡県小山町)での24時間耐久レースでトヨタ自動車の液体水素エンジン車が2年目の大きな進化を見せた。水素供給系を中心にカーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ、CN)という視点で採用された主な新技術は4つ。加えて、公にはされていないがもう1つあるようだ。さらに、今後に向けて幾つかの新技術も研究開発されている。それら技術の詳細を見ていこう。
今回のレースに参戦した「#32 ORC ROOKIE GR Corolla H2 Concept」(以下、液体水素エンジンカローラ)は、電気系の改造などが起因となりアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)の制御性に問題が発生し、安全上の観点から合計で約9時間(3回)、ピットインすることとなった。それでも、肝心の液体水素エンジンや水素供給系には大きな問題が発生せず完⾛した。
新クランクでポンプの耐久性を改善
1つ目の新技術は、ピストン圧送方式の液体水素ポンプである。
液体水素エンジン車としてデビューした2023年5月の24時間耐久レースでは、耐久性が不足した液体水素ポンプを使っていた。このためレース中、計画的に2回交換し、合計3台のポンプを使用した。
耐久性が問題だったのは、ピストンを上下に往復運動させるクランクシャフトの軸受のひずみである。2023年仕様ではそのクランクシャフトを電動モーターで片側からのみ駆動する機構だったので、クランクの両端軸受の片方に偏荷重がかかっていたという。
2024年仕様は、新たに「Dual-Drive」と呼ぶクランク機構を採用した。1個のモーターでクランクシャフトの両端軸受に均等に駆動力が伝わるように工夫している。図の赤いギア対を片方からモーターで駆動すると、赤い2つのギアがクランクに固定された青い2つのギアを同時に同じトルクで回転させることができる。
これにより、2024年の24時間耐久レースでは、実質の走行時間は15時間ではあるが、液体水素ポンプを無交換で完走した。このクランク機構を含めた駆動部分は、液体水素タンクの上部の外に設置してある。液体水素を圧送するピストン部は下向きに、コネクティングロッドによってタンク内の底深く沈められている。
同ポンプによって、タンクから圧送された液体水素を水素ガス噴射弁に供給する前に気化器で気化する。供給する熱量はエンジン冷却水を利用する。熱を与え過ぎると上流側の液体水素まで気化し、場合によってはタンク内まで熱が伝わりピストン部まで気化すると液体水素を圧送できなくなる。逆に気化器での供給熱量が少な過ぎると噴射弁が正しく作動しなくなる。この気化器の温度制御が重要である。
水素タンクを楕円形状に
2つ目の新技術は、異形液体水素タンクである。
2023年仕様のタンクは断面が円形の円筒形であったが、2024年仕様ではタンクの断面を楕円形状とした。狙いは、同じ搭載空間で液体水素を少しでも多く搭載するためだ。円筒形に比べ約1.5倍(150Lから220Lに)の容量となり、15kgの水素を搭載できる。もちろん、内部構造はいわゆる魔法瓶と同じ二重の真空構造である。タンクの質量は20kg増となったが、他の部品の軽量化により車両全体でほぼ変わらずという。
70MPaの高圧水素ガスタンクの異形化については超高圧に対する耐圧構造という観点で、世界的に研究はされているが至難の業である。一方、液体水素タンクの場合、内圧が1MPa以下と相対的に低圧であるので、異形でもタンクの耐圧設計が可能となった。
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