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 米大手設計事務所のスキッドモア・オウイングス・アンド・メリル(SOM)は2024年5月30日、重力蓄電システム(GESS)を手掛けるスイスのエナジー・ボールト・ホールディングスと戦略的パートナーシップを結んだと発表した。

 エナジー・ボールトが進める次世代版GESSの構造物について、SOMが独占的な意匠・構造設計者となる。設計だけでなく、製品企画にもSOMが関わることになるという。

 GESSとは、物の重さを利用してエネルギーを貯蔵・放出する技術を指す。余剰電力などでブロックなどを持ち上げて位置エネルギーとして蓄え、落下する際のエネルギーでタービンを回して発電する。

 協業は既に始まっており、パートナーシップの締結に合わせて次世代版のプロトタイプを公表した。そのうちの1つは超高層ビルにGESSを組み込んだものだ〔図1〕。

〔図1〕超高層ビルと蓄電システムを一体化
〔図1〕超高層ビルと蓄電システムを一体化
重力蓄電システムを組み込んだ超高層ビルのプロトタイプ。エナジー・ボールトの次世代システムを導入しており、構造物の設計をSOMが担当する契約だ(出所:SOM、エナジー・ボールト・ホールディングス)
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 いわば、超高層ビルを巨大な電池にするアイデア。SOMは世界で最も高い建築物であるブルジュ・ハリファ(高さ829.8m、アラブ首長国連邦・ドバイ)の設計者であり、超高層の設計に明るい事務所として知られる。

 エレベーターシャフトのような、重りとなるブロックが上下に移動する昇降路を超高層ビルに複数設けることで、重力式のエネルギー貯蔵を実現する。昼間に使い切れなかった再生可能エネルギーの余剰分などを使って夜間にブロックを引き上げる想定だ〔図2〕。

〔図2〕ブロックを引き上げてエネルギーをためる
〔図2〕ブロックを引き上げてエネルギーをためる
重力蓄電システムのイメージ。夜間などに余剰電力を使って重りを上層部まで引き上げ、位置エネルギーをためる仕組み。引き上げる際にエネルギーを使っているため、創エネには該当しない(出所:SOMの資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 建物高さは最低で300m、最高で1000mを想定する。位置エネルギーは高さに比例するため、建物の高さが2倍になれば蓄えられるエネルギーも2倍になる。

 エナジー・ボールトによれば、プロトタイプの超高層ビル1棟で数GWhの蓄電が可能だ。超高層ビル自体だけでなく、隣接するビルにもエネルギー供給ができる水準だという。

 例えば電力量を公開している新宿パークタワー(高さ235m)の1日当たりの消費電力量は約0.2GWhなので、単純計算で10日以上の電力供給が可能になる。

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