https://www.businessinsider.jp/post-289927
レゾナック、エレクトロニクス事業本部の阿部秀則副本部長。Business Insider Japanの単独インタビューに応じた。
撮影:三ツ村崇志
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大手化学メーカーのレゾナックが、アメリカ・シリコンバレーで半導体の「後工程」に関わる日米の半導体材料・装置トップクラスの企業10社と共にコンソーシアムを設立する。7月8日、発表した。
2025年の稼働開始を目指し、2024年からクリーンルームや装置導入などの準備を進めていく。
コンソーシアムに加盟するのは、アメリカからは半導体製造装置のKLAやキューリック&ソファ、銅電気メッキ材料のMLIなど。日本からは製造装置を製造するTOWAやアルバック、ほかにも東京応化工業やナミックス、メックといった材料メーカーが名を連ねる。
どの企業もいわゆる半導体製造の「後工程」と呼ばれる工程で重要な製造装置や素材などを取り扱う企業だ。
半導体の製造工程は、半導体チップのもとになる円盤状のシリコンウエハーを作る「前工程」と、チップを切り出して樹脂で囲ったり、端子を付けたり、全体を使える素子にするためにパッケージ化する「後工程」に分けられる。半導体産業で遅れを取っていると言われることの多い日本だが、後工程においてはレゾナックをはじめ世界トップの技術・シェアを持つ企業は多い。
ビッグテックを筆頭に、生成AI向けの半導体需要が世界中で高まる中で、日本企業が強い後工程分野であえてアメリカにコンソーシアムを作る狙いはどこにあるのか。レゾナックの業務執行役兼エレクトロニクス事業本部の阿部秀則副本部長が、Business Insider Japanのインタビューに応じた。
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巨大IT企業が自ら半導体設計をする業界トレンド
レゾナックは2023年1月に昭和電工と昭和電工マテリアルズが統合して誕生した。同社では多数の世界トップの半導体材料を取り扱っている。
撮影:三ツ村崇志
—— 今回、レゾナックが主導して半導体「後工程」に関わる日米企業のコンソーシアムを作るということですが、背景を教えて下さい。
レゾナック 阿部:従来の半導体は、例えばCPUやGPUなどが基盤上でそれぞれ一つのパッケージになっていました。その隣にメモリーなどの別のパッケージがあって、マザーボードを介して信号のやり取りをしていたわけです。ただ、生成AIのように大容量の計算を高速でやる必要が出てきたことで、それでは「間に合わない」と。後工程(パッケージ技術)の中で、できるだけ短い距離で(素子を)つなぐ新しい技術が必要になってきています。これが大きな理由です。
今のサプライチェーンでは、NVIDIAが生成AI用のデバイスを設計し、主にTSMCがその前工程・後工程を担い、そこで製造されたものをGAFAMのような企業が購入しています。そういった中で、GAFAMらから「自分たちで半導体を設計してもっと効率よく使いたい」というニーズが出てきています。そのために、今まで研究開発に力を入れてきた前工程だけではなく、後工程の設計思想も考えていくことが新たな潮流となっているんです。
新しいパッケージ構造を作ろうとしている人たちと密にコラボレーションすることで、必要な材料や装置のニーズをいち早く掴む。これが拠点を作る一番の理由です。
—— なぜ半導体産業では後工程が重要になってきているのでしょうか。今まで、半導体産業は前工程で「2nm」と呼ばれるような「半導体の微細化」を突き進めていたように思います。物理的に微細化の限界が近づいているのでしょうか。
阿部:前工程のロードマップではさらに細かいスケールの話も出ていますが、それ(微細化の限界)は1つあると思います。
従来は微細化でチップを小さくすることが、コストダウンと性能向上を実現していました。後工程はそれを「つなぐだけ」の役割だったんです。ただ、今は(超微細な最先端の)半導体を作るために必要な装置が、1台数百億円という世界観になってきています。当然完成品も高価になるので、経済合理性が弱くなってきています。性能向上と経済的バランスを取る方法を考える中で、後工程の性能向上の余地が見出されました。
また、もう一つの流れとして、一つの基盤に搭載できるロジック回路の数を増やしていく「チップレット」と呼ばれる方向性での進化も起こっており、パッケージング技術が求められています。
撮影:上野翔碁
—— 今回、なぜわざわざアメリカにコンソーシアムを作る必要性があったのでしょうか。
阿部:従来はアメリカで新しい半導体のパッケージ構造を作る場合は、日本や台湾など、アジアに来て、例えば日本の装置メーカーや材料メーカーを1カ月かけてめぐりコンセプトを検証していました。ただ、生成AIが登場してTime To Market(TTM:製品の企画から市場投入までの期間)が非常に重要になってきました。できるだけ早くリリースする必要が出てきた中で、国をまたいだ新材料の評価がやりにくくなったんです。
そこでGAFAMをはじめとしたファブレス企業(自社で生産設備を持たない企業)が近くにあるシリコンバレーに拠点を作れば、彼らがやりたいことを議論しながら実現できる。スピード感を上げられる可能性があるなと。
—— 実際、生成AIの登場で半導体製造プロセスではどれくらい速度が求められるようになっているのでしょうか。
阿部:以前は、プロセッサーだと2〜3年に1度程度の頻度で新製品が登場していました。今では、恐らく1年単位になります。NVIDIAからも「どんどん新しいものを出していく」と聞いています。それだけ業界の発展のスピードが早いんです。
—— GAFAMらと関係性を深められれば、最先端半導体の設計に食い込んで行ける可能性も出てきそうですね。
阿部:仰るとおりです。最先端半導体に関する議論は、アメリカを中心に展開されるはずなので「アメリカにいること」が重要にもなります。いち早く情報を捉え、そのために必要な材料や装置がどうなるのかを考えていけば、ビジネスチャンスは広がるはずです。
日本の材料メーカーや装置メーカーは、すごい良い技術はあるのですが、我々の会社も含めて技術で勝ってビジネスで負けている、という例が沢山あります。
レゾナックが持つ半導体材料。世界でもトップシェアを持つ材料を多数取り扱っている。同様に世界トップシェアの半導体材料を持つ国内企業は多数存在する。
画像:レゾナック
2021年に日本で「JOINT2」という国内企業のコンソーシアムを立ち上げた後、次に何をやろうか議論する中で、アメリカが自国で半導体をつくろうとしている動きが加速していると感じていました。放っておくと、アメリカの中でサプライチェーンができて、日本が強かったはずの材料や装置が使われなくなってしまうという危機感も感じていました。
また、特にコンソーシアムに参加する日本のメーカーの方にお伝えしているのは、若いエンジニアをここに駐在させてGAFAMのエンジニアと直接話しをしてほしいということです。彼らが何を考えてるのかよく理解した上で、研究開発をする。そういう人材を育てていくこともすごく重要だと思っています。
GAFAMは半導体に何を求めているのか
半導体のパッケージングでは後工程の技術開発が鍵を握る。
撮影:三ツ村崇志
—— 国内の関連企業と設立した従来からあるコンソーシアム(JOINT2)と、今回アメリカに設立するコンソーシアムとでは、役割や性質の違いは?
阿部:JOINT2は日本の材料メーカー、装置メーカー、基盤メーカーが集まる、半導体メーカーに提案する前の「練習場」のようなイメージのプロジェクトです。どういう材料なら要求性能を出せるのか、実際にプロセスを動かしてブラッシュアップする。そこで見出された材料や装置を半導体メーカーに提案していました。
新しいコンソーシアムは、それとは違い「お客様が求めるもの」をどう実現するかを一緒に考えていく場所です。
何を研究していくかもお客様次第になるので、研究テーマは決まっていません。もちろんある程度のことに対応できるような製造ラインは整える予定です。
—— 半導体業界のトレンドを考えると、GAFAMらからはどういった要求がありそうでしょうか。
阿部:ユーザー目線でいうと「多機能化や高機能化」でしょうか。世界の潮流として、 データ量が増えています。AIの制御パラメーターも増えています。そこで半導体にまず求められるのは、膨大な情報量をできるだけ高速に処理できること。加えて、それを低消費電力で実現するということで、多機能化・高機能化かなと。
そういう意味で、解きたい課題は前工程で求められてきたものと基本的には同じかもしれませんね。
—— 前工程の開発では、「何年後にこれくらい微細化する」という進化のロードマップがありました。後工程ではそういった形で省電力性や高速化の見通しはあるのでしょうか?
阿部:後工程は形式もさまざまですし、材料が変わるだけで特性も大きく変わってしまいますので、前工程ほどロードマップが固まっているわけではありません。将来は「光電融合」という光の技術をパッケージに入れる話もあって、そうなると消費電力はいままでとは全く次元の違う話になっていきますし。
今それができないのは、技術的な課題がまだまだあるからです。ただ、性能や技術の信頼性をどこまで求めるのかは、企業ごとに最適解がおそらく異なるのだと思っています。
「後工程」で世界の半導体に付加価値を
—— 今後の半導体の大きな進化は後工程で起こると考えていますか。
阿部:前工程も引き続き研究開発は進むと思いますが、今まで以上に後工程が重要になってくるとは思っています。
今まで前工程の装置・材料が利益の源泉、付加価値の源泉でした。だからお金をかけてどんどん研究開発を加速して設備投資もしていたわけです。その流れは続くと思いますが、後工程の重要性が見直される中で、後工程でも設備投資や開発投資を通じて付加価値を創出する必要が出てきた時代になってきているのだと思います。
生成AI用に我々の材料(NCFやTIM材料)が採用されているのですが、これは非常に要求水準が高い難しい材料なんです。研究開発に時間をかけたからこそ実現できる、付加価値が高い材料です。
後工程が重要になればなるほど、付加価値を出せる機会が増えると思っています。そういった領域を早く見つけて、研究していくことが重要です。
—— レゾナックとして、将来的な半導体分野の売り上げ目標などはあるのでしょうか。
阿部:数字を出すのは難しいのですが、2030年に先端半導体パッケージ用の材料市場が1200億円程度になるとされています。レゾナックとしては、そこでできるだけシェアを取ることを目指しています。
半導体業界は「最初に使われること」が非常に重要です。(最先端のものは)最初は量も少なく、売り上げも小さいかもしれませんが、技術が成長すればそれがデファクトスタンダードになって広がっていく業界なので、将来的にはさらにスケールすると期待しています。
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