2024年6月8日土曜日

部下のやる気アップに「ほめる」より大事な一言 コーチングにおける「アクノレッジ」とは何か 2024/06/03 16:00 鈴木 義幸 : コーチ・エィ代表取締役 社長執行役員 著者フォロー

 

話を聞く上司たち
「あなたはこんなことをしてくれた」「あなたにはこんな力がある」……。上司からの率直な声かけが部下のやる気を引き出します(写真:Graphs / PIXTA)
「部下のやる気が上がらない」「チームに一体感がない」……。そのような悩みがあるなら、コーチングのスキルの1つである「アクノレッジメント」を取り入れてみませんか。アクノレッジメントを日本語にすれば「承認」ですが、単に「ほめる」ことではなく、「存在承認」を意味している、と言うのは、『「承認 (アクノレッジ) 」が人を動かす』を上梓したコーチ・エィ代表取締役 社長執行役員の鈴木義幸氏。「存在承認」とはどういうことなのか、鈴木氏に聞きました。
目次

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アメリカ人コーチから学んだ「アクノレッジ」

1997年に日本初のコーチング専門会社を創業するにあたり、私たちはその前年、アメリカから1人のエグゼグティブコーチを招きました。

彼の名前はデービッド・ゴールドスミス。

後に私たちが提携することになるアメリカのコーチ養成機関「コーチ・ユニバーシティ」(現コーチ・ユー)のプレジデントです。「コーチングとは何か?」ということについては、このデービッドからすべて教えてもらいました。

4日間の滞在日程が終わりに近づき、私たちは10人ほどのメンバーで、デービッドを取り囲んでミーティングをしていました。

話すべきことを全て話し終わり、立ち上がろうとすると、デービッドが言いました。

「Wait、I’d like to acknowledge you all」

日本語にすれば「ちょっと待って。ここにいる全員をアクノレッジしたい」ということでした。

そしてデービッドは、10人ひとりずつについて、その人が彼の滞在中、何をしてくれたか、どんな会話を交わしたか、その人のことを彼がどう思い、どう感じたのか、そして、その人が今後日本におけるコーチングの発展にどのような役割を果たしうるか、とても丁寧に伝えてくれました。

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それまでの4日間でデービッドとはすでに協力関係はできていましたが、最後に聞いたこの話のおかげで、デービッドへの信頼は一回り太くなったように感じました。

コーチングにおける「アクノレッジ」と言われるものの重要性を、初めて体感した瞬間でした。

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「ほめる」だけではダメな理由

さて、このアクノレッジメントの日本語訳としては、「存在承認」という言葉が最も近いと思っています。アクノレッジメントを英和辞典で調べても、「承認」としか出てきませんが、承認だけでは、なかなかその意味するところは伝わりません。

「承認」と聞くと、「ほめる」ことを連想される方もいるかもしれません。確かに「ほめる」というのは、相手が出した結果に評価を添えて承認していると言えます。つまり「結果承認」です。

ですが、相手のやる気を起こさせたり、エネルギーをチャージさせたりするコミュニケーションとして「結果承認」を使っていると、相手はいずれ何らかのタイミングで“ガス欠”になる恐れがあります。

ある英英辞典には、アクノレッジメントとは「その人がそこにいることに自分は気が付いている。それを相手に伝えること」と書かれていました。
これこそがまさに「存在承認」です。

先ほどの「結果承認」も広義にはアクノレッジメントのひとつです。しかし結果が出ていなくても、存在そのものを愛しく感じるようなアクノレッジメント、つまり存在承認が人には絶対的に必要になります。

そういう意味でデービッドが私たちに投げかけてくれた言葉は、まさにアクノレッジメントでした。「こんなことをあなたたちはしてくれた」という認識を共有してくれただけで、評価がそこにあったわけではないからです。

小さい子供は、「ねえ、見て!見て!」と、自分の周囲に何かを見つけては指をさします。

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あれは、実は、自分が指さしたものを見てほしいというよりも、「それを指さしている自分」を見てほしいのです。それに気づいている自分に気づいてほしい。

協力関係をつくらなければ生き残ることができなかった人類という種は、周りから自分の存在を否定されれば、それは社会的な死を意味します。ですので、人間のDNAには「自分の存在の承認を求める」ということが書き込まれているのではないかと思うぐらいです。

存在承認とは
(出所:『「承認 (アクノレッジ) 」が人を動かす』)

心理学では、「Unconditional Love(無条件の愛)」を、おじいさんやおばあさんから受けた子供は、とても精神的に安定した人に育つと言われます。

親は、どうしてもしつけという観点から、何かできたらほめ、できなかったり間違ったりしたら叱る、ということをやりがちです。でも、祖父母は、そうした育成責任から少し解放されていますから、とにかく子供を無条件に受け入れる傾向が強い。

そうすると子供は、「結果承認」の前に、「存在承認のシャワー」を継続的に受けることになります。結果、自分の価値というものを、過剰に周りの判断に依存しなくてよくなる。

自分の存在は、「そもそも肯定されている」というのがデフォルトですから。

言い方を変えれば、周りに自分を認めてもらうために行動を起こしたり、発言をしたりする必要がなくなるわけです。

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承認されるために「ゲーム」をする人もいる

自分が手にしたいものを手にするために、直接的にそれを求めるのではなく、結果的にそれが手に入るように「仕組む」こと。それをここでは「ゲーム」と呼んでみます。

自分やチームが目標に到達するために、行動を起こしたり、ミーティングで発言をしたりすること自体は、「ゲーム」ではありません。

しかし、そこに「お前はよくやった」となんとか周りに言わせたいという気持ちがにじみ出ていると、ゲームっぽさが漂います。

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誰しも行為に対して承認は受けたいものですが、それを手にするための色合いが強すぎると、ゲームという範疇に入ってきます。

強く自分の成果をアピールするならまだわかりやすいですが、誰かをおとしめることで自分を浮かび上がらせようとすれば、これはもう完全にゲームです。

ゲームはさまざまな形で表出します。

たとえば会議という場面で、妙に細かなあらを探して突っ込みを入れるのは、それがわかっている自分という存在を際立たせるため。

少しでも自分の意見に反目した人とコミュニケーションを取らないのは、自分へのリスペクトを欠いた人とは付き合わないことを示す、つまり自分はリスペクトに値する人だということを外に示すため。

会議で発言しないのは、発言しないことで逆に自分に注目させるため。

これらは、会社の未来を考えての行為ではなく、自分の存在を肯定させるための行為です。こうしたゲームの出どころは、つまるところ、承認不足によるものではないかと思います。

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今からアクノレッジをやってみる

あなたに部下が10人いるとして、どのくらいの存在承認を子供時代から今に至るまで受けてきたかは、10人それぞれでしょう。

でも、過去のことを言い始めたらきりがありません。今からが再スタートです。デービッドが私たちにやってくれたように、あなたも部下にアクノレッジメントをしてみましょう。

チームの中での存在承認が増えれば、誰かを上げたり下げたりすることで自分の価値を高めようとする、全体のエネルギーを奪う「ゲーム」は総体としては減るはずですから。

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鈴木 義幸コーチ・エィ代表取締役 社長執行役員
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