(画像引用元番号①)
みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、時間結晶と準結晶の性質を併せ持つ“新しい物質相”「時間準結晶」を初めて合成したという報告についてだよ!これは今まで未発見・未合成として穴になっていた物質相に手が届いたということで、とても興味深い報告なんだよね。
最初に書いておくと、今回の話は難しめで、前提となる知識も多いから、内容が分からなかったとしても安心してほしいのよ。初めは、この研究の理解に欠かせない「時間結晶」と「準結晶」の2つの用語について説明するけど、ある程度知っている部分があったり、逆に結論まで飛ばしたい人は適宜飛ばしてね!
CONTENTS
「時間結晶」とは?
結晶は身近に無数に存在する物質相だけど、その性質を厳密に見てみると、空間に対する対称性が自発的に破れている物質相なんだよね。 (画像引用元番号②)
世の中の物体を原子の配列で見て見ると、結晶のように原子の配列が一定か、それ以外のランダムなもの (液体や気体) かで大雑把に区別されるよ。これは単に原子そのものだけでなく、原子が存在する空間も含めて見てみると、もっと大きな違いがあるんだよね。
原子の配列がランダムなものの場合、原子が置かれるべき特別な空間の点というのが存在しないので、どの空間の点も等しくなるよ。対して結晶は、原子の配列が理路整然としているので、原子が置かれるべき特別な空間の点が周期的に出現する、という大きな違いが生まれるんだよね。
これを難しい言葉で「対称性の自発的破れ」と呼ぶんだけど、このような状態が出現すると、他では見られない特別な性質が出てくるんだよね。例えば磁石や強磁性、超流動や超伝導、質量の源であるヒッグス機構なども対称性の自発的破れに由来する現象だよ。こう聞くと結晶ってかなり変な物なのがなんとなく分かるよね。
そして、結晶における対称性の破れは、より厳密には「空間並進対称性の自発的破れ」と書くんだよね。並進は原子の並びの事を指すんだけど、じゃあ空間は何だろうとなると、文字通り原子が3次元空間のどこに配置されているのか、という点に関わってくるよ。
「時間結晶」は、結晶の概念を時間次元に拡大したもので、当初予言された形式の時間結晶は合成不可能だと証明されたんだけど、2016年には独立した研究チームによって2種類の時間結晶が合成されたよ! (画像引用元番号③④)
ところでみんなは「現代物理学では、時間と空間は共に一緒の枠組みで考えられる」ということを知っているかな?これを「空間3次元+時間1次元」、あるいはまとめて「4次元時空」と呼ぶけど、これは現代物理学の基盤である相対性理論で提唱され、受け入れられてきた考え方だよ。
つまり現代物理学は、時間次元と空間次元は一緒のものとして考えるんだよね。確かに、どの方向にも進める空間次元と違い、時間は1方向にしか進めそうにないなどの違いはあるけど、基本的な性質は共通していることが長年の研究で理解されているんだよね。
時間と空間は一緒であり、普段見慣れている結晶は、空間の対称性を破っている存在である、ということを踏まえると、時間の対称性を破った結晶が存在してもおかしくない、と考えるのは自然だよね?このように「時間並進対称性の自発的な破れ」を示すものとして予言されたのが「時間結晶」だよ。
時間結晶の理論的な予言は2012年にフランク・ウィルチェック氏によって最初にされたよ。Wilczek氏が最初に予言した時間結晶は作成不可能なことが後ほど証明されたけど、その後、外部から力を加えて駆動させる時間結晶には作成可能な“抜け道”が存在することが分かり、2016年には2種類の時間結晶が初めて合成されたよ!
外部から力を加えて駆動させるというと、なんだか普通のバネや振り子や惑星の公転運動も時間結晶になってしまいそうだけど、これらの周期運動は時間結晶とは区別されているんだよね。最も大きな違いは、時間結晶は理論上は半永久的に存在する、つまりひとりでに周期を刻み続けることにあるよ。
普通の結晶は、何かしらの種結晶や不純物を中心に結晶が成長し始めることが多いけど、時間結晶における種結晶や不純物に当たるのが外部からの駆動なんだよね。また、時間結晶は駆動した力の周期とは異なる周期を示し、異なる強さや周期の力を加えても簡単には壊れない、という特徴も持っているんだよね。
長々と説明したけど、スゴく大雑把にまとめれば、時間結晶は「周期という時間による性質で定義される結晶物質」という点を覚えてくれればいいのよ。
「準結晶」とは?
「準結晶」は、一定の秩序はあるけど長期的な周期が保たれていない不思議な結晶だよ。最初は発見自体が疑われるほどだったけど、現在ではノーベル化学賞を贈られているくらい評価されている研究なんだよね! (画像引用元番号⑤⑥⑦)
先ほどの時間結晶と比べれば、「準結晶」はまだ優しいよ。先ほどの普通の結晶についておさらいすると、それは原子が理路整然と並んでいる、つまり空間に対して周期的に原子が配列されているもの、だよね。理想的には、結晶はどこまでも同じ原子の配列が続いており、原子配列の周期が変わることはないよ。
しかし、世の中には変わった結晶があるもので、短い距離で見ると周期的に見えるんだけど、長い距離で見ると周期的ではない、 (空間並進対称性ではない) 結晶というものがあるんだよね。これが準結晶で、1982年にダニエル・シェヒトマン氏によって発見され[注1]、2011年にはノーベル化学賞にもなったよ!
準結晶は単純にランダムな配列と何が違うのかと言えば、普通の結晶に見られる周期性がないけど、それでも一定の秩序の下で原子が配列している、という部分なんだよね。パッと見では分からないけど、準結晶は結晶と同じく、一定の数学的法則の下で原子の配列を説明することができるよ。
これはどういうことか。例えば、準結晶の2次元平面バージョンとも言い換えられる「ペンローズ・タイル」は、2種類の菱形を隙間なく配列すると、なぜかどこにも同じ模様が現れない非周期的なタイル張り (平面充填) が現れるんだよね。この3次元バージョンが準結晶と言えるよ。
これらの数学的な背景には、より高次元の超立体 (ペンローズ・タイルは5次元超立方体、最初に発見された準結晶は6次元超立方体) が関与するので、一気に訳が分からなくなるかもだけど、これは数学的手法の問題で高次元が出てくるだけで、準結晶自体は高次元の存在ではなく、ちゃんと現実の空間に収まる話だよ。
長々と説明したけど、スゴく大雑把にまとめれば、準結晶は「短距離では周期的だけど、長距離では周期的ではない結晶物質」という点を覚えてくれればいいのよ。
時間結晶かつ準結晶な「時間準結晶」を初めて合成!
今回の実験では、ダイヤモンドの中に隙間を作り、そこに入り込んだ電子のスピンを制御することで時間準結晶を作成したよ! (画像引用元番号①)
さてようやく本題!セントルイス・ワシントン大学のGuanghui He氏などの研究チームは、世界で初めて「時間準結晶」と呼べる物体を合成したことを報告したよ!ここまでの説明を踏まえれば、時間結晶と準結晶の合体版が時間準結晶だというのが何となくわかるよね。
今回の実験ではまず準備として、数mmのダイヤモンド結晶に強力な窒素ビームを照射し、炭素原子を吹き飛ばして原子1個分の隙間を無数に作ったよ。このような隙間に電子が入り込むと、電子のスピンと呼ばれる性質が、隣り合う電子と相互作用し、条件さえ整えれば周期的に変化するような環境に置かれるんだよね。
そして、この状態となった結晶にμ波パルスレーザーを当てるんだけど、このパルスは周期的ではなく、一定の法則に基づくものの全体としては非周期となるように調整したんだよね。そして、非周期なμ波パルスの倍数に従う形で、電子のスピンが変化するのを観察したんだよね!
短期的には周期的だけど、長期的には非周期的な電子のスピンの変化は、まさに時間準結晶と呼べる状態なんだよね。ちなみに今回合成された時間準結晶は、原子サイズの隙間が100万個以上あつまった、直径わずか約1µmほどの小さなものだけど、それでも合成できたんだよね!
“新しい物質相”を合成したという点で興味深い研究
時間準結晶が何かの役に立つかは今のところ分からないけど、これまで手が届かなかった物質相を埋められただけでも十分に意義深い研究なんだよね!
時間結晶は、将来的には量子センサーや量子メモリのような応用があるかもしれないけど、今のところは研究室で短時間だけ現れる存在以上のものではないよ。時間結晶は理論的には半永久的に安定だけど、今のところは不安定性が大きすぎて長く留め置くことができないんだよね。
今回作り出された時間準結晶も、やはり相当不安定であり、応用というのを語るのは、どうしても時期尚早だと私は考えているよ。なので時間準結晶は理論的には興味深い物質なんだけど、実際のところ何の役に立つのかは今のところは未知数な段階なんだよね。
ただ時間準結晶は、その存在自体がいわば“新しい物質相”なんだよね。結晶の概念を時間に拡大した時間結晶や、結晶にも関わらず周期性がないという準結晶も、結晶という既知の概念からすれば“新しい物質相”なんだけど、今回の時間準結晶はその両方を兼ね備えているわけだからね。
空間と時間、周期性のありなしで表を組むと、これまで結晶・準結晶・時間結晶があったわけだけど、今回晴れて4つ目の空白だった時間準結晶が埋まった。これが今回の研究の意義の1つであり、それだけでも十分にインパクトのある話なんだよね。
また、私の考えとしては、仮に時間準結晶が役に立たなかったとしても、関連する技術や理論の開拓は、間違いなく応用に化けるものがあるはずだと思うのよ。こういう、直接には役に立たなそうな基礎研究でも、この先をの発展を想像してみるのもいいかもね!
注釈
[注1] 準結晶の発見
シェヒトマン氏による発見以前に、現代の目線で見れば準結晶の性質を捉えている実験結果がいくつかあります。しかし、これらはシェヒトマン氏によって正確に説明されるまで、否定されたり説明のつかない現象として扱われていました。このため、シェヒトマン氏は準結晶の発見者ではあるものの、初めて合成した人物ではありません。シェヒトマン氏自身も最初は信じがたい発見であったため、2年の時間を費やし慎重に解釈をし、研究の発表は1984年、論文の出版は1985年となりました。そして実際、発表当初は否定的な意見が大勢でした。 本文に戻る
文献情報
<原著論文>
- Guanghui He, et al.“Experimental Realization of Discrete Time Quasicrystals”. Physical Review X, 2025; 15 (1) 011055. DOI: 10.1103/PhysRevX.15.011055
<参考文献>
- Chris Woolston. (Mar 12, 2025)“Crystallizing time”. Washington University, St. Louis.
- Ryan Wilkinson. (Mar 12, 2025)“A New Type of Time Crystal”. Physics.
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)
- 時間準結晶を含むダイヤモンド結晶の写真: プレスリリースより
- 横から見た目のアイコン素材: ICOOON MONOより
- フランク・ウィルチェック (2004年のノーベル賞受賞会見時の写真) : WikiMedia Commonsより (Author: Betsy Devine)
- 時間結晶の合成報告論文が掲載された、Nature誌2017年3月9日号の表紙: Natureより
- Al-Pd-Mn準結晶の表面原子配列のモデル: WikiMedia Commonsより (Author: J.W. Evans (The Ames Laboratory & US Department of Energy) )
- ペンローズ・タイル: WikiMedia Commonsより (Author: Inductiveload)
- ダニエル・シェヒトマン: flickrより (Photo: Mariana Costa / Author: Universidade de Brasília)
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