2015年6月16日火曜日

食道癌に対する腫瘍融解ウイルス『テロメライシン』 最新がん治療法 ウイルス療法 最新のがん治療はどこで受けられるか?岡山大学病院です。

食道癌に対する腫瘍融解ウイルス『テロメライシン』の臨床研究 第1例目投与

 岡山大学病院 白川靖博講師(消化管外科)、同大大学院医歯薬学総合研究科 藤原俊義教授(消化器外科学)らの研究グループは、白川講師を総括責任者として、世界初となる食道癌に対する腫瘍選択的融解ウイルス製剤「テロメライシン」を用いた放射線併用ウイルス療法の臨床研究を開始いたしました。2013年11月29日、内視鏡で第1例目の患者にテロメライシンが投与され、12月2日より放射線治療が行われています。計画ではさらに2回、テロメライシンの投与が予定されています。
 食道癌は高齢の患者の場合、手術や標準的な抗がん剤治療が難しいことが多く、低侵襲の治療開発が切望されています。研究グループでは、テロメライシンが放射線治療の効果を強めることを基礎研究で明らかにしており、今回の臨床研究でその安全性と効果が確認されれば、高齢や合併症を有する食道癌・頭頸部癌の患者への福音となると期待されます。
研究内容:
 テロメライシン(Telomelysin、OBP-301)は、岡山大学で開発された国産の抗がんウイルス製剤であり、岡山大学発バイオベンチャー オンコリスバイオファーマ(株)によって臨床開発が進められています。同社が米国で製造した臨床用のテロメライシンを本年3月、岡山大学病院に輸入し、臨床研究の準備を行ってきました。
 患者は、県内在住の80歳代の女性で、高齢のため手術は難しく、軽度腎機能障害があるために通常の抗がん剤治療も困難でした。11月25日、岡山大学病院遺伝子治療臨床研究審査委員会 安全・効果評価・適応判定部会で適応が検討され、本臨床研究に適応ありとの承認が得られました。
 11月29日、局所麻酔下に内視鏡を用いて胸部食道の患部を注射針で穿刺し、0.2 mlずつ5ヶ所に計1 mlのテロメライシンを投与しました。処置自体は約15分で終了しております。当日の一過性の微熱以外に副作用はみられず、テロメライシン投与後3日目の12月2日より、1日2グレイ、週5日の放射線治療を開始しています。今後、12月16日、12月30日の2回、5ヶ所ずつのテロメライシンの投与を行います。また、放射線治療は来年1月16日まで継続予定です。
 治療後3ヶ月目に内視鏡で治療効果を判定し、さらに患部の組織を採取し、病理学的にも検討します。

期待される効果:
 がんは1981年以来、日本人の死亡原因の第1位を占めており、国民の健康と安全・安心な社会を確保するためには、既存の治療コンセプトとは異なる革新的な治療技術の開発が不可欠です。テロメライシンは、テロメラーゼ活性を標的とするがん治療を目的とした生物製剤であり、生体内で自立性を持って増殖することによる従来の抗がん剤にない抗腫瘍効果の作用機序を有しています。また、放射線による癌細胞のDNA損傷の修復を阻害することで、放射線治療の感受性を格段に増強することができます。
 今回の臨床研究が順調に進んで行き、標準的な手術や抗がん剤治療が受けられない高齢の合併症を有する食道癌・頭頸部癌の患者にとって安全で有効な治療法であることが明らかになれば、今後、拡大していく高齢化社会において国民の健康増進や医療経済の節減にも役立つと期待されます。

テロメライシンについて:
 「テロメライシン」は、風邪ウイルスの一種であるアデノウイルスのE1領域に、多くのがん細胞で活性が上昇しているテロメラーゼという酵素のプロモーターを遺伝子改変によって組込み、がん細胞中で特異的に増殖して癌細胞を破壊することができるようにしたウイルス製剤です。「テロメライシン」がヒトのがん細胞に感染すると一日で10万~100万倍に増え、がん細胞を破壊します。一方、「テロメライシン」は正常組織細胞にも同様に感染はしますが、テロメラーゼ活性がないためウイルスは増殖せず、正常組織での損傷は少ないと考えられます。オンコリスバイオファーマ(株)が米国で実施した、がん患者に対する「テロメライシン」の臨床試験において、重篤な副作用は認められておらず、投与部位での腫瘍縮小効果などの有効性が認められました。

オンコリスバイオファーマ株式会社について:
 オンコリスバイオファーマは、癌と感染症を克服するための新薬開発を行っている岡山大学発バイオベンチャー企業です。主要プロダクトである「テロメライシン」(開発コード:OBP-301)は、現在各種固形癌をターゲットとして米国での第Ⅰ相臨床治験を終了しております。

<補 足>
 本研究は、厚生労働科学研究費補助金( 医療技術実用化総合研究事業)(65,000,000円/年)の助成を受け実施されています。


図1 テロメライシンの作用機序



図2 テロメライシンの放射線増感作用



図3 臨床研究の進め方



図4 テロメライシン投与と放射線治療スケジュール


報道発表資料はこちらをご覧ください[PDF]


<お問い合わせ>
(所属)岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科
    消化器外科学
(氏名)藤原俊義、香川俊輔、田澤 大
(電話番号)086-235-7257
(FAX番号)086-221-8775
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