2016年7月12日火曜日

3Dプリンターで本物の臓器は作れるのか?

勉強の為に引用しました。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20141208/393196/?ST=health

「第76回 日本臨床外科学会総会」のシンポジウムから

2014/12/09 00:00
大下 淳一=日経デジタルヘルス
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好きなデザインの3次元構造体を手軽で安価に作れる3Dプリンターが、医療現場に本格的に浸透し始めた。医療機器の構成部品から、ステントなどの治療器具、外科手術のシミュレーションや教育に使う臓器モデル、体内に埋め込んで使う医療機器まで、その用途は幅広い。
会場の1つ、ビッグパレットふくしま
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 再生医療に使えるような、生体由来の細胞や組織をベースとする人工臓器を3Dプリンターで作製する。そんな試みも始まった。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2014年11月、バイオ3Dプリンティングや細胞シートの積層技術などの立体造形技術を用いて、iPS細胞などから立体組織・臓器を製造する技術開発プロジェクトを開始すると発表した(関連記事1)。近い将来、3Dプリンターで“手軽に臓器を再生できる時代”は訪れるのか――。
 2014年11月20~22日に福島県郡山市で開催された「第76回 日本臨床外科学会総会」(会場:郡山市民文化センター、ビッグパレットふくしま、ホテルハマツ)では、「3Dプリンターが変える未来の医療」と題するシンポジウムが開かれた。3Dプリンターを活用した組織・臓器の再生をテーマに、4人の登壇者が最新の研究成果を紹介した。

3Dプリンターで本物の臓器は作れるのか?(page 2)

「第76回 日本臨床外科学会総会」のシンポジウムから

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大下 淳一=日経デジタルヘルス

医療応用には「4つのレベル」

 最初に登壇したのは、富山大学 大学院 理工学研究部(工学) 教授の中村真人氏。「3Dプリンターが拓く未来の医療:生命を吹き込む医工学の時代へ」と題して講演した。
講演する中村氏
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 中村氏はまず、医療応用に向けたバイオ3Dプリンティング技術は、造形に使う材料や用途によって大きく4つに分類できると話した。(レベル1)非生体適合性材料を用いた「医療用モデル」「装具」「医療機器部品」など、(レベル2)生体適合性材料を使った「ステント」「埋め込み型人工臓器」など、(レベル3)医療再生用のスキャホールド(細胞培養の足場)を生体適合性材料で実現する「再生医療用スキャホールド」、(レベル4)生体材料(生物学的材料)を使った「3D組織モデル」「細胞組織チップ」「移植用組織」「バイオ人工臓器」など、である。
 レベル1は、X線CT画像から3D CADモデルを作製し、3D CAMや3Dプリンターを使ってオーダーメイドの臓器モデルを作るような技術。レベル2は、生体適合性の金属や無機・有機材料を使い、埋め込み型人工臓器の部品や筐体、全体を作るような技術を指す。レベル2の領域では既に、3Dプリンターで作製した人工頭蓋骨を患者に埋め込む試みがオランダで始まるなどの動きがあるという。

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「第76回 日本臨床外科学会総会」のシンポジウムから

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大下 淳一=日経デジタルヘルス

複雑な構造や生理機能の再現が課題

 最も高い目標である(レベル4)では、再生医療や組織工学、臓器工学にまで踏み込む必要がある。これらの領域では、皮膚や角膜、軟骨など「薄く構造を持たない組織」を作る技術は既に実現できているものの、今後は「より複雑な構造や高度な生理機能を持つ、心臓や腎臓、肺などの重要臓器の実現が課題だ。ここに向けてはブレークスルーが必要になる」(中村氏)。
 具体的な技術課題は、(1)ミクロの構造を作る、(2)多種の細胞で構成する、(3)3次元構造を作る、(4)内部構造を作る、(5)毛細血管を作る、の5つだという。これまでは、スキャホールドに細胞をまき、増殖因子を投与して、これら5つの要件を満たす組織を作製するという手法が一般的だった。これに対し今後は、機械やコンピューターを活用して細胞を1つずつ積み重ねていくビルドアップ型のアプローチが必要とし、バイオ3Dプリンターがその手法になると話した。
 ただし、バイオ3Dプリンターで毛細血管や臓器を作製するためには「生物の力が必要で、生物学と工学の融合によって高度なバイオファブリケーション(bio fabrication)技術を確立する必要がある」(中村氏)。こうした技術は、難治性疾患を根治に導くなど「未来の医療を革新する」(同氏)とした。

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「第76回 日本臨床外科学会総会」のシンポジウムから

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大下 淳一=日経デジタルヘルス

細胞を自在に配合して臓器を作る

 続いて、佐賀大学 医学部 胸部・心臓血管外科の伊藤学氏が登壇。「バイオ3Dプリンターを用いた臓器再生」と題して講演した。同氏らのグループは、上述のNEDOプロジェクトで選ばれた5つのテーマのうちの「バイオ3Dプリンターで造形した小口径Scaffold free細胞人工血管の臨床開発」の委託予定先の1つに選ばれた。
講演する伊藤氏
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 伊藤氏らは、多数の細胞の凝集体(スフェロイド)に着目した再生臓器の研究を進めている。スフェロイドの積層技術としてバイオ3Dプリンターが活用できるという。スフェロイドには、複数種の細胞を混合して作れるという特徴があり、混合する細胞の種類や比率を変えることで、さまざまな性質を持たせることが可能だ。例えば、血管内皮細胞と血管平滑筋細胞、線維芽細胞をある比率で混合すると、血管組織型スフェロイドを作製できる。これを大量に培養することで、人工透析や、心疾患治療のためのバイパスに使えるような血管(構造体)を作れる。
 こうしたスフェロイドベースの組織や臓器の作製に、バイオ3Dプリンターを使う。3Dプリンターではさまざまなデザインが可能であることに加え、組織・臓器の機能に応じた細胞の選択や配合の調整が可能で、スキャホールドも不要にできる。臨床応用上重要な再現性にも優れる。
 伊藤氏らは、バイオ3Dプリンターを用いて血管構造体や弁構造体、軟骨などが作れることを確認済みだ。今後は、何らかの臓器不全に陥った患者に対し、iPS細胞などから目的臓器に応じた組織型スフェロイドを作り、3Dプリンターを使って機能的3次元組織を作製。これを再生臓器として移植するようなアプローチが考えられるとした。そこに向けた「最初のアプローチとしては、(自分の組織を使う)自家移植がふさわしいのではないか」(同氏)。

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「第76回 日本臨床外科学会総会」のシンポジウムから

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大下 淳一=日経デジタルヘルス

細胞培養の足場を高機能化

 東京大学大学院 医学系研究科 外科学専攻 感覚・運動機能医学講座 口腔外科分野の高戸毅氏は、「3Dプリンターによる外科用インプラントの創生」と題して講演した。同氏らのグループは、NEDOプロジェクトで選ばれた5つのテーマのうちの「高機能足場素材とバイオ3Dプリンターを用いた再生組織・臓器の製造技術の開発」の委託予定先の1つである。
講演する高戸氏
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 高戸氏らはかねて、骨や軟骨の再生医療に関する研究を進めてきた。現在、再生医療分野で最も競争の激しい領域の1つが軟骨といい、軟骨の再生医療は「まもなく現実のものとなる」(高戸氏)。この他、鼻変形の再建のための再生軟骨は臨床応用に入り始めており、気管再建のための再生軟骨も2015年に臨床試験が始まる見通しという。
 その上で、高機能で大サイズの組織・臓器の再生医療を目指すためには、細胞を培養する「足場素材や成長因子が重要になる。日本は幹細胞などの研究では世界に冠たる成果を挙げているが、この領域をやらなければ産業応用は進まない」と指摘した。同氏らのグループが参加するNEDOプロジェクトでは、バイオ3Dプリンターで高機能な足場素材を実現し、これを使って再生組織・臓器を作ることを目指す。
 対象とする組織・臓器は、骨や軟骨・半月板、創傷被覆組織、膝関節、肝臓である。その共通の技術要素には、合成コラーゲン(生物の共通骨格)、3次元造形(生物の精緻な構造再現)、成長因子(時間的・空間的傾斜再現)の3つがあるという。例えば肝臓の再生では、合成コラーゲンを3次元造形し、バイオ3Dプリンターを用いて作製した足場素材とインクジェットヘッドから噴射する成長因子を利用して、再生肝臓を作製する。

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「第76回 日本臨床外科学会総会」のシンポジウムから

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大下 淳一=日経デジタルヘルス

臓器を作る型の作製に活用

 最後に、国立循環器病研究センター研究所 医工学材料研究室の中山泰秀氏が登壇。「3Dプリンターを用いた光造形と生体内組織形成術による体内造形の融合によるバイオバルブ心臓弁の開発」と題して講演した。
講演する中山氏
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 中山氏らのグループは、組織や臓器を作るための“型”を3Dプリンターで作製するというアプローチを取る。その型を体内に埋め込み、組織を形成させるという方法だ。一般に、皮下に異物を入れると、コラーゲンが異物を覆って周囲から隔離する“カプセル化反応”が起こる。3Dプリンターで作った型を皮下に埋め、カプセル化反応を利用して組織や臓器を再現するわけだ。
 この手法で既に、バイオバルブ(心臓弁)やバイオチューブ(人工血管)、バイオステントなどを作製できることを確認済み。バイオバルブは、心臓弁膜症の治療などに使うものである。今回の手法で作るバイオバルブは、三葉弁などさまざまな形状を作れることに加え、「縫い合わせ箇所がないことから強度が高い」(中山氏)。これらの組織については、ヤギや犬での検証実験を行っており、人間への適用に向けた検討も進めているという。
 同氏らの研究室では、米国メーカー製などの3Dプリンターを導入。この結果、「思いつきのアイデアをその日のうちに実物にでき、研究室が半ば“工場”のようになった。従来は1年を要していたような改良を、今では1カ月や1週間という単位で実現できる」(同氏)。

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