2016年07月28日
「ナルディライジン」というタンパク質が、血糖上昇時のインスリン分泌に不可欠であり、血糖値を一定の範囲に維持するために重要な働きを担っていることを明らかにしたと京都大学が発表した。
血糖上昇時にインスリン分泌が増えないことが糖尿病の原因
三大栄養素のひとつである炭水化物は、消化によって最終的にグルコース(ブドウ糖)などの単糖類に分解されて腸管から吸収される。糖尿病は、血糖調節ホルモンのバランスが崩れていること、特に血糖上昇時にインスリンが充分に分泌されないことが原因のひとつとされている。 研究グループは哺乳類の体内に共通してある「ナルディライジン」と呼ぶタンパク質に着目し、ナルディライジンが欠損したマウスを作製。正常なマウスにグルコースを投与すると、インスリンの分泌が亢進するが、ナルディライジンが全身で欠損しているマウスにグルコースを投与しても、インスリンの分泌はほとんど増加しないことを突き止めた。 次に、膵β細胞だけでナルディライジンが欠損しているマウスを作製し、同様にグルコース負荷試験を行ったところ、やはりインスリン分泌の増加は認めず、血糖値は上昇して、糖尿病型を示した。 つまり、膵β細胞のナルディライジンが、グルコース反応性のインスリン分泌に必須であることが分かった。 膵島の構造を観察したところ、ナルディライジンが欠損しているマウスの膵島ではβ細胞が減少し、血糖値を高めるグルカゴンα細胞が増加していた。 詳しく解析したところ、もともとβ細胞であった細胞の一部が、ナルディライジンを失ったことでα細胞に変化したことが判明。したがって、ナルディライジンは、インスリンの分泌を制御するだけではなく、β細胞に分化した状態を維持するためにも必要であると考えられる。ナルディライジンを増やせばβ細胞の機能が改善
研究チームは次に、グルコース反応性のインスリン分泌が障害されるメカニズムを追求するため、膵島の遺伝子発現を調べた。その結果、ナルディライジンが欠損しているマウスでは「MafA」という転写因子の発現量が減少していることが判明。 MafAは、インスリン自体やインスリン分泌調節に関わるタンパク質(GLUT2など)の発現量を制御する、膵β細胞に特異的に発現する転写因子。 膵β細胞を培養し、ナルディライジンの遺伝子発現を増減させたところ、MafAの発現やインスリン分泌の量も、それに応じて増減することが分かった。 これらから、膵β細胞のナルディライジンが、▽β細胞の機能(グルコース反応性インスリン分泌)、▽β細胞の分化状態維持を保つ、つまり血糖値を一定の範囲内に保つことに不可欠なタンパク質であることが分かった。 今後、ナルディライジンを調整する方法が見つかれば、新たな糖尿病の治療法を開発できる可能性がある。 また、iPS細胞などの幹細胞から膵β細胞を作製して移植することが、糖尿病の理想的な治療法となる可能性があり、世界中で研究が進められている。 今回の研究成果は、ナルディライジンの発現を上昇させることで膵β細胞の機能が改善することを示しており、高品質な膵β細胞の作製につながる可能性もあると、研究グループは述べている。 この研究は、京都大学大学院医学研究科の西英一郎特定准教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は米国糖尿病学会の発行する医学誌「Diabetes」オンライン版に発表された。京都大学大学院医学研究科
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