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2022年2月21日 07:00
音楽配信サービスが普及し、家にいる時間も増えたので、ノートPCで音楽を聴いたり、家でもスマホ+イヤフォンで音楽を聴いているという人も多いだろう。せっかく高音質な音楽が沢山聴けるようになったのだから、それを高音質なオーディオ機器で、本格的なスピーカーで聴きたい! と考えるのも自然な流れだ。しかし、我々の前には“デカイコンポを置く場所がない”“本格的なオーディオ機器は高価”という2つの壁が立ちはだかっていた。
“いた”と過去形で書いたのは、この壁を壊す注目の製品が登場したからだ。それが、テクニクスから2月25日に発売される一体型ネットワークCDレシーバー「SA-C600」(11万円)と、小型ブックシェルフスピーカー「SB-C600」(ペア11万円)だ。高音質ながら、どちらもコンパクトで価格も抑えられており、この価格でテクニクスのオーディオ機器を手にできるというのはかなりインパクトがある。
そこで、2週に分けて「SA-C600」と「SB-C600」の実力に迫っていこう。今回はSA-C600から。両モデルを自宅試聴室に持ち込み、機能や使い勝手、SB-C600以外のスピーカーと組み合わせた際の、アンプとしての実力などを徹底的にチェックした。
小型でもグッとくるデザイン。TVやレコードプレーヤーとも接続可能
SA-C600は、340×341×94mm(幅×奥行き×高さ)の薄型かつコンパクトなシャーシに、定格出力60W(4Ω)のデジタルパワーアンプを搭載した、ネットワーク対応の一体型オーディオ製品。CDからハイレゾ、ストリーミングなど新旧様々な音楽ソースに対応しており、これ1台あれば、お気に入りのスピーカーと組み合わせて、音楽を楽しみ尽くすことができる。
テクニクスのオーディオ製品は、上位シリーズから順に「Reference Class」「Grand Class」「Premium Class」という3つのラインで展開されている。SA-C600は、上位モデルの技術を投入しながら手に入れやすい価格を実現した「Premium Class」に属するモデルという事が注目点。
SA-C600を語る上で外せないのは、まずは秀逸なデザインだ。高さ85mmの薄型かつコンパクトなシャーシ。ヘアライン仕上げが施されたアルミニウム材がトップパネルに使われており、そこにトップローディング方式のCDドライブを配置。再生中に回転するCDが見えるなど、オーディオ的に“グッとくる”デザインで、見ているだけで楽しい。
ちなみにアルミニウムは3mmもの厚みがあるのだが、これはデザイン的な要素と同時に、内部振動の発生低減、および外部振動の抑制による音質向上という2つの効果を狙ったものだ。こういった部分に、オーディオメーカーのDNAが感じられる。
そして、新旧の音楽ソースに幅広く対応することも大きな特徴だ。まずはCD再生。最近はストリーミングやスマホを利用した音楽再生スタイルがメインになっているものの、青春時代に買い貯めた大切なCDを改めて良い音で聞きたいという人も多いだろう。
加えて、本体にネットワーク機能を搭載しており、ストリーミング再生にももちろん対応している。有線と無線(Wi-Fi IEEE802.11a/b/g/n/ac)接続をサポートし、ストリーミングサービスはAmazon Music、Spotify、Deezerに対応する。ちなみに、最大192kHz/24bitまでの「Amazon Music HD」には現時点で非対応。「市場動向を見ながら対応を検討している」とのことなので、対応を期待したいところだ。
NASやUSBメモリ等からハイレゾファイルなどのデジタル楽曲ファイル再生もでき、さらにインターネットラジオ、FMラジオ、AirPlay 2に対応するほか、Chromecast built-inにも準拠。また、コーデックは一般的なAAC/SBCながら、Bluetooth接続も可能なので、スマートフォン、タブレット、パソコンなどと接続してYouTubeなどの音声を手軽に再生できる。
また、MQAに対応しているのもポイントだ。音楽配信サービスでダウンロードしたMQAファイルをフルデコード再生できる。前述のようにCDプレーヤーも内蔵しているが、MQA-CDのハイレゾ再生も可能だ。
さらに、SA-C600の凄いところは、入力端子がたいへん充実していることだ。同軸デジタル/光デジタル、MM型カートリッジ対応のフォノイコライザーまで搭載し、てんこ盛りの内容。レコードプレーヤーを組み合わせることもできるし、TVと接続してドラマや映画をオーディオスピーカーから再生する事も可能だ。
上位機の技術を取り入れた、本格的なアンプ部
……と、ここまでであれば、“沢山の音源に対応できる一体型機”という立ち位置だが、SA-C600の価値を高めているのが、徹底した音質対策である。最上位シリーズの製品からスライド投入された技術も少なくない。しかもそれは、“オーディオ回路部による音質対策”と“テクニクスらしいデジタルドメイン下”という2つのアプローチで成り立っている。
まずオーディオ回路部の高音質化対策について語らなくてはいけないのは、アンプ周りについて。現代テクニクスアンプのお家芸ともいえる、独自のフルデジタルアンプ技術「JENO Engine」の搭載だ。本技術はたいへん高精度なジッター低減回路と独自の高精度PWM変換回路で構成されており、高解像度な音を出しつつ音楽性の高さも担保する。
また小型ボディにも関わらず、アンプ専用の電源を独立させた「Twin Power Supply Circuit System」を搭載するのもポイント。独立した2つのトランスを持ち、専用トランスとアンプ部回路を最短距離で接続し、それ以外の回路と区別することでローノイズ化を図っている。
そのほか、同社最上位のレコードプレーヤー「SL-1000R」に採用されたノイズ抑制技術をベースとした「Clean Powered Clock Generator」回路など、小型ボディに様々な独自技術が投入されている。
そして、デジタルドメイン(デジタルの音声信号領域)を使った様々な信号処理も魅力。例えば、スピーカーは部屋の設置場所の違いで低域の量感が大きく変わってくるが、それを最適化する「Space Tune」機能に対応する。
さらに、44.1kHz/16bitのCDデータをハイレゾ相当の情報量に上げる「CDハイレゾ リ.マスター」機能、Bluetoothやインターネットラジオなどロッシー(圧縮)フォーマットを採用するソースを非圧縮のロスレスソースに近付ける「Re-master」技術なども搭載している。
これらの音声処理技術を、アンプが持つトーンコントロールなどアナログ領域でやろうとすると、少なくない音質劣化が発生するが、デジタルで実施することでそのロスを最小限に抑えることができている。デジタルの音声処理が得意なテクニクスらしい手法だ。
一体型機ということで、操作性もしっかり考慮されている。本体上部には物理ボタン、フロントパネルには動作ステータスを表示する有機ELディスプレイとタッチボタンを装備。また専用リモコンのほか、iOSやAndroidデバイスにインストール可能な操作アプリ「Technics Audio Center」も利用できる。音楽を再生するシーンは様々だが、この3つを駆使できる本機のユーザビリティは高そうだ。
オーディオ環境でフロア型スピーカーと接続し、音質チェック!
では、肝心の音質はどうだろうか?
今回は僕の自宅1Fにある試聴室を使い、現在設置している中~大型のスピーカーJBL「L100 Classic 75」(ペア75万円)と組み合わせたピュアオーディオ環境で、ストリーミングやハイレゾファイル、そしてレコード再生も試してみた。
一体型ということでSA-C600の設置作業はシンプルだ。電源ケーブルとスピーカーケーブルを接続したら、あとは無線かWi-Fiでネットワークに接続して、スマホ/タブレットに操作アプリ「Technics Audio Center」をインストールすれば終了である。ちなみに、スピーカー端子はしっかりしたものが採用されていて、スピーカーケーブルをしっかり固定できて嬉しい。このあたりも本格派なアンプらしい部分だ。
設置中に、SA-C600のデザイン性と軽さに改めてハッとさせられた。新生テクニクスらしい、直線基調な意匠を継承したシルバーのシャーシは、オーディオルームはもちろんのこと、リビングでもマッチする。さらに、コンパクトでシャーシ重量も4.8kgと軽めなので、サイドボードや家具の上にも設置しやすいのが嬉しい。
まずは基本となるCD再生から。僕の大切にしている1枚、マライア・キャリーが1998年に発売したCD「# 1's」を聴いた。
本体の透明な蓋をスライドして、ディスクを「カチ」っと音がするようにはめ込む。デザインの良い家具のドアをスマートに開けるような感覚、蓋を戻すと自動で再生が始まった。回転するディスクが美しく照らし出され、音楽を聴く雰囲気を高めてくれる。トップパネルにディスクをセットしてから音が出るまでの作法は、まるでアナログディスクを再生しているかのような高まりを僕に与えてくれた。
なお、組み合わせたJBLのスピーカーは、1970年代に登場した“L100 Century"をモチーフとして開発された中型モデル。いや、一般的に考えるなら300mm径ものウーファーを備えた本格的かつ大型の3ウェイスピーカーだ。小さなSA-C600が太刀打ちできるのだろうかと、最初は心配だった。
しかし、その気持ちは杞憂に終わる。SA-C600は、現代的な描写力を持つハイファイな音作りで、スピーカーの駆動力も予想以上に高かったのだ。中高域の透明感が高く、それによりヴォーカルのディテールもシャープかつ声質はチャーミング。低域は予想以上にしっかりと出るのが嬉しい。何よりも僕が高く評価する同社のハイグレードアンプ「SU-R1000」や「SU-G700M2」に通じる忠実なサウンド傾向に安心した。
次にネットワーク再生だ。iPadにインストールした「Technics Audio Center」を立ち上げ、筆者宅に設置したNASからJazz名盤のハイレゾファイル「Blowing Session」(DSD 2.8MHz)を再生した。JBLのスピーカーらしいグルーブの高い音がしっかりと聴きれる。サックスの咆哮や重量感のあるベース表現なども秀逸に表現する。
例えば、価格が10倍の、100万円もする巨大なアンプで駆動すれば、これ以上の表現力を出す事もできるかもしれない。しかし、SA-C600は11万円で、この小ささ、しかも一体型機でここまでのグルーヴが出せるなら大満足だ。
実はテクニクスの開発陣は音楽ラバーが多い。昔は「日本の大企業のオーディオ製品は音楽性が不足している」なんてよく言われたものだが、新生テクニクスにはそれは当てはまらない。
余談となるが、SA-C600でのデジタル楽曲ファイル再生には、今試したNASからの再生の他に、フロントパネルのUSB端子に外付けハードディスク/メモリを接続しても可能だ。ただし、USBメモリのフォーマットは、FAT16、FAT32、NTFS形式のみなので注意が必要。可能なら、最近使用者の多いexFATへの対応も期待したい。
また、リアパネルにはUSB-B入力が付いているので、パソコンをトランスポートとする、いわゆる「PCオーディオ」も楽しめる。もう「なんでも来い」といった感じだ。
続いて、ストリーミングサービスのSpotifyから、J-Popのヒットチャートのプレイリストを再生。先ほど聴いたハイレゾファイルほどの絶対的な情報量は持ち合わせないが、何よりも手軽に音楽が聞けるのは嬉しい。
また、スマホとBluetooth接続してスマホ内の動画や音楽を再生する事もできる。欲を言えばapt X HDやLDACなどの高音質Bluetooth接続コーデックに対応してくれればなお嬉しいが、そこまで音質にこだわる場合は、ハイレゾやCDなどロスレスのソースを縦横無尽に聴けるので問題ないだろう。AirPlay 2にも対応しているので、iPhoneやiPadからも手軽に再生できる。
操作アプリ「Technics Audio Center」についても記しておきたい。本アプリは黒色基調のグラフィカルユーザーインターフェイスを備え、ソース選択から試聴までの一連の動作もスムーズ。画面タッチのレスポンスも良好。また、先述したとおり、基本的な再生指示やボリューム調整は、SA-C600の本体や付属リモコンからも行なえる事もあり、一体型機で必須な操作性の高さについても合格点である。
アナログレコードを楽しみたい人にも
レコードの音も試してみよう。テクニクスのターンテーブル「SL-1500C」(11万円)を用意。RCAのラインケーブル1本で接続でき、本当にシンプルだ。SL-1500Cはフォノイコライザーを搭載するが、さらに高級なプレーヤーや昔のプレーヤーはフォノイコライザーを内蔵しないモデルもある。SA-C600はMM式のイコライザーを内蔵しているので、それらとも連携できるのが見逃せないポイント。
ここでは僕が所有するブルーノートやプレスティッジなどのオールドジャズや、手嶌葵の「simple is best」などに針を載せた。
SA-C600とSL-1500Cは、両者とも電源ボタンなどの物理的なボタンが上面にあるので、レコードをセットしてターンテーブルの回転をスタート、そして音量を決めるという、一連の動作がスムーズだ。
音質については、SL-1500Cは音質的なコストパフォーマンスが高いレコードプレーヤーとして有名で、こちらも予想以上に良い音で沢山のディスクを聴くことができた。巷のアナログブームは熱を帯びる一方だが、SA-C600のシャーシは使用したSL-1500CやSL-1200MK7と高さを揃えてあるので、並べて設置した時の視覚的な一体感が抜群。SA-C600を入手できた方は、ぜひレコード再生にもチャレンジして頂きたい。
設置場所に合わせた音質に調整する「Space Tune」
最後に、スピーカーの設置場所に合わせて音質を調整してくれる「Space Tune」機能を試した。
本機能はスピーカーの前後左右の空間が空いた場合に適応する「Free」、壁側に設置する用の「Wall」、壁のコーナー設置用の「Corner」、さらに小型スピーカーを棚の中などに置く用の「In a Shelf」、合計4つのプリセットが選択できる。
試しにL100 Classic 75を壁際に設置して、「Wall」モードでON/OFFの効果を試した。操作は付属リモコンの[SETUP]ボタンを押してSpace Tuneのメニューを表示させて行なう。OFFの状態だと、低域がブーミーで膨らんでしまい、音のディテールもつぶれてしまいがちだが、ONにするとブーミーさが大きく改善されて、ディテール表現がリアルになる。昔であればスピーカーを上下に動かして調整していたものだが、家具やスピーカーの配置に自由度がないリビングなどでは強力な機能となるだろう。
これらは手軽なプリセットだが、iOS端末にインストールした「Technics Audio Center」を使えば、iOS端末のマイクを使って、より精密な周波数特性の測定・補正を実施する「Measured」モードも使用できる。iPhoneなどを使っている人は、こちらを試すといいだろう。
オーディオ入門に最適“気合いの入った”一体型
試聴を終えて感じたのは、本モデルに対するテクニクスの力の入れようが半端ないことだ。
2014年に復活を宣言したテクニクスだが、ここ数年は特にオーディオファンのツボをつく、“欲しくなるような”ミドルクラスレンジの製品を発表してきた。それらの開発を経て、“満を持して”より安価で多くの方が手に入れやすいモデルとして登場したのがこのSA-C600なので、開発陣の“気合いの入りっぷり”は想像に難くない。以前であればこのような小型ボディに、ここまでの機能を詰め込むオーディオ製品は作れなかっただろう。
開発陣によれば、筐体が薄型のため、基板上の部品とCDユニットとの干渉を避ける部品配置の制約があったほか、多機能をコンパクトなワンボディに内蔵する事で、温度的に厳しい部品も出てきたという。そういった問題を、部品配置と放熱の工夫により解決したそうだ。
今回SA-C600で小型シャーシ、多機能化、高音質化という相反する要素を達成できたのは、アンプなどのデバイスの進化と、テクニクスの潤沢な開発リソース、そして何よりも開発陣の努力の結晶だと僕は思う。
トップパネルはあえてボタンを増やさずに前面のモノクロOLED画面にタッチキーを備えた事で、シンプルなボタン操作と洗練されたデザインを両立し、CDドライブを搭載した事で、幅広い年代層にリーチする仕様なのもポイントである。今回、大型のスピーカーも秀逸に駆動できたので、一昔前のスピーカーを持っている人が最新オーディオにグレードアップするのにもぴったり。肥大化しがちな本格的オーディオシステムを、スリムかつ良い音質で楽しめるので、これから本格的なオーディオ趣味をはじめたい人にもおすすめである。
“褒め過ぎてしまった”感もあるが、実際コレと言って致命的な欠点も見つからないし、購入後の満足感はかなりのものとなるだろう。
次週はいよいよ、SA-C600の相棒とも言える小型ブックシェルフスピーカー「SB-C600」と組み合わせてみよう。計22万円で手に入るテクニクス・オーディオのサウンドに乞うご期待だ。
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