https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2024/06/press20240620-02-ZrTe5.html
【本学研究者情報】
〇材料科学高等研究所 助教 双 逸
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 一次元原子鎖が弱い分子間力でつながってできた「擬一次元ファンデルワールス物質(quasi 1D-vdW)(注1)」の中で代表的なジルコニウムテルライド(ZrTe5)の大面積薄膜を、従来の剥離方法とは異なる方法で作製する技術を開発しました。
- ZrTe5薄膜がアモルファスから結晶相に相変化する際、大きな電気と光学特性変化を示すことを発見しました。
- quasi 1D-vdW薄膜の開発により、電子デバイスや光学デバイスなどの微細化限界を突破することが期待されます。
【概要】
擬一次元ファンデルワールス物質(quasi 1D-vdW)は、その独特な一次元原子鎖構造によって量子効果(注2)を増幅し、従来の二次元物質(注3)とは異なる特性を示します。特にZrTe5は、そのディラック半金属およびワイル半金属(注4)としての性質や、異常な量子現象、高い熱電性能などで注目されています。これらの特性を実用的な半導体デバイスに応用するために、大面積なZrTe5薄膜の成膜手法が求められています。
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の双逸助教と須藤祐司教授(大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻 兼 東北大学材料科学高等研究所)並びに東北大学グリーン未来創造機構グリーンクロステック研究センターの齊藤雄太教授と東北大学大学院工学研究科知能デバイス材料学専攻安藤大輔准教授、慶應義塾大学理工学部のポール フォンス教授らの研究グループは、半導体産業で一般的なスパッタリング法(注5)を用い、アモルファス相から結晶相への相変化を利用することで、大面積なZrTe5薄膜を製造できることを実証しました。この相変化により、薄膜の抵抗率は4桁もの大幅な減少を示し、光学バンドギャップ(注6)も大幅に縮小しました。
本成果はZrTe5を含む一次元材料の基礎的理解を深めるとともに、量産可能な製造方法の開発につながります。
本成果は、2024年 6月8日に材料科学分野の専門誌Journal of Materials Science Technologyに掲載されまた。
【用語解説】
注1. 擬一次元ファンデルワールス物質(quasi 1D-vdW)
一次元原子鎖構造を持ち、それぞれの原子鎖が弱いファンデルワールス力で結合している物質を指します。この構造により、特異な電気的、光学的、機械的特性が現れます。
注2. 量子効果
物質がナノスケールにスケーリングされたときに顕著になる物理現象を指します。具体的には、電子の波動性、量子トンネル効果、エネルギー準位の離散化などがあります。これらの効果は、物質の電気的、光学的、機械的特性に大きな影響を与え、従来のマクロスケールでは見られない特性を示します。特に一次元ファンデルワールス物質では、これらの量子効果が強調され、ユニークな特性を発現します。
注3. 二次元物質
原子間の結合は層内で閉じているが、それら層間は弱いファンデルワールス力で結合している結晶構造を持つ物質。
注4. ディラック半金属およびワイル半金属
固体物理学における特殊な状態を示す物質で、ディラックフェルミオンまたはワイルフェルミオンと呼ばれる擬似粒子が低エネルギー準位で存在します。
注5. スパッタリング法
物理蒸着法(PVD)の一つで、ターゲット材料を高エネルギーのイオンで衝撃し、その結果として飛び出した原子を基板上に堆積させる方法です。この技術は、薄膜材料の製造に広く用いられています。
注6. バンドギャップ
半導体や絶縁体のエネルギーバンド構造において、価電子帯と伝導帯の間に存在するエネルギーの差を指します。このギャップの大きさは、材料の電気的および光学的特性に大きく影響します。
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学材料科学高等研究所
助教 双 逸
TEL:022-795-7339
Email: shuang.yi.e3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学大学院工学研究科
教授 須藤 祐司
TEL:022-795-7338
Email: ysutou*material.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
広報戦略室
TEL: 022-217-6146
Email: aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
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