https://businessnetwork.jp/article/25877/
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技術力に定評あるエイビットが開発した「Extreme IoT」は、衛星通信・イリジウムとLPWAを組み合わせ、過酷な環境でも安定したIoT運用を実現するソリューションだ。低消費電力設計により独立電源で長期稼働し、防災・インフラ監視から海洋モニタリングまで幅広い用途に対応。IoTの新たな可能性を切り拓く。
半導体設計からデバイス開発、ネットワーク構築まで、通信ソリューションをワンストップで提供するエイビット。そのなかでも、LPWAを活用したIoTには長く取り組んできた実績がある。
LPWAの1つにLoRaWANがあるが、エイビットはその普及に中心的な役割を果たしてきた。モジュール、ゲートウェイ、センサーなど多くの機器を自社開発するだけでなく、業界団体・LoRa Allianceの日本初のコントリビューターとして日本国内での規格策定に深く関与している。
LTE不感地帯にこそIoTニーズ 内水氾濫対策で浮き彫りに
その知見を生かして取り組んでいる新規事業の1つが、「Extreme IoT」だ。
Extreme IoTは、洋上や山間地など、過酷な環境でのIoT運用を実現するサービスである。衛星通信と独立電源駆動により、LTEの不感地帯や電源確保が困難な場所でも、リアルタイムのデータ取得を可能にする。
エイビット 新規事業戦略室 室長の都竹章浩氏によれば、Extreme IoTを開発する大きなきっかけとなったのが、佐賀県での内水監視の取り組みだったという。
エイビット 新規事業戦略室 室長 都竹章浩氏
エイビット 新規事業戦略室 室長 都竹章浩氏
近年の気候変動により、都市部でも浸水被害が全国各地で相次いでいる。こうした浸水は、大量の雨水が下水道に流れ込み、マンホールからあふれ出る内水氾濫によって発生することが多い。佐賀県は近年相次いで内水氾濫による浸水に見舞われ、その対策が急務だった。
そこで佐賀県とエイビットは協働し、水位計とクラウドによる監視システムを構築。県全域約320箇所にエイビット製の超音波センサー式水位計を設置し、2022年11月から運用している。
市街地の浸水を監視するため、水位計は道路やアンダーパスなどに重点的に配備されたが、氾濫を起こしやすい用水路やため池にも設置された。ここで問題になったのが、電波不感地帯だ。水位計はLTEでデータを送信するため市街地では問題なく通信できるが、「ため池は住宅街の外なので、LTEがぎりぎり届かない場所があります」(都竹氏)。その不感地帯を、エイビットが得意とするLoRaでカバーし、各市町村が指定する内水監視ポイントを網羅することができた。佐賀県とエイビットはIoT運用をさらに効果的にするため、取得したデータの利活用にも継続的に取り組んでいる。
都竹氏はこの経験から、LTEには広大な不感地帯が存在していることを再認識したという。日本の国土におけるLTEの面積カバー率は約60%。人口カバー率が99%を超えて久しい一方、国土における山地や離島の多さという地理的要因によって、基地局設置は頭打ちとなっている。
「LTEの不感地帯にこそ、IoTのニーズがあります」。こう力を込める都竹氏は、その例として道路や線路などのインフラ維持、建設現場、防災対策、洋上監視などを挙げる。そして、こうした用途をターゲットに商品化したのが、衛星通信とLPWAを組み合わせたExtreme IoTだ。
技術力に定評あるエイビットが開発した「Extreme IoT」は、衛星通信・イリジウムとLPWAを組み合わせ、過酷な環境でも安定したIoT運用を実現するソリューションだ。低消費電力設計により独立電源で長期稼働し、防災・インフラ監視から海洋モニタリングまで幅広い用途に対応。IoTの新たな可能性を切り拓く。
衛星×LPWAと低消費電力で“地球上どこでもIoT”を実現
Extreme IoTでは、LPWA基地局のバックホールとしてイリジウム衛星通信サービスを活用している。イリジウムは、地上780kmの位置に配置された66機の周回衛星による通信サービス。空が見渡せる場所であれば、基本的に地球上どこでも通信が可能だ。エイビットは、米イリジウム社の正規パートナーとなり、登録電気通信事業者として自ら衛星通信サービスの提供を開始した。
昨今はStarlinkに代表される低軌道衛星が世界中を席巻しているが、イリジウムの長所は消費電力の低さにあると都竹氏は説明する。電源確保が難しい場所で稼働する前提のExtreme IoTは、太陽光パネル等とバッテリーという独立電源で運用できるよう設計されており、イリジウムはこの条件を満たす。一方、Starlinkは常時数十ワットを消費するため、独立電源での運用はほぼ不可能だ。
もちろん、独立電源による稼働には、LPWA自体の消費電力が小さいことも大きく貢献している。Extreme IoTには2タイプあり、その1つの海洋IoT向けのタイプでは消費電力をより抑えるため、ネットワークサーバーが不要なプライベートLoRaでセンサーデバイスと衛星ゲートウェイ間の通信を行う。
Extreme IoTの構成機器。左から、海洋向け太陽光パネル付き衛星IoTゲートウェイ(プロトタイプ)、可搬型衛星IoTゲートウェイ、ミリ波水位計
Extreme IoTの構成機器。左から、海洋向け太陽光パネル付き衛星IoTゲートウェイ(プロトタイプ)、可搬型衛星IoTゲートウェイ、ミリ波水位計
海洋IoTタイプのExtreme IoTについては現在、システムの耐環境性能と海洋データの取得、分析について知見を得るため、東京大学生産技術研究所 林昌奎研究室と共同研究を行っている。神奈川・平塚沖に設置された実験タワーに潮位センサーを設置し、約1km離れた地上局に置いた衛星IoTゲートウェイとLoRaで通信。衛星IoTゲートウェイはイリジウムを用いてデータをクラウドにアップロードする。
この実験は離島の周辺海域のモニタリングを想定して進められている。潮位や波高を計測することで、その変化が温暖化などの地球環境の変化とどのように関係しているかを解明できる可能性があるほか、潮位の上昇などの安全保障上の問題解決にもつながるという。さらには、洋上建設現場の監視や、風力発電施設のモニタリングなどにもユースケースは広がる(図表)。
図表 Extreme IoTによる海洋IoTのユースケース
図表 Extreme IoTによる海洋IoTのユースケース
センサーにも技術革新がある。実験で使用する潮位センサーは河川用水位計を改良したものだが、測定にはミリ波を用いている。従来の超音波式では、超音波を発射するためにラッパ型の開口部を設ける必要があり、虫の侵入やクモの巣が測定の妨げになったり故障の原因になったりすることがあった。ミリ波での測定が可能になったことで密閉した箱形になり、メンテナンスフリー化を実現。また、草木や砂利などの干渉物があっても正確な測定が可能となった。さらに低消費電力性能も向上し、内蔵電池で数年間稼働する。
見通しの悪い山間部で活用する場合には、Extreme IoTのもう1タイプである920MHzマルチホップ無線タイプが適している。これにはエイビットが遠隔検針で培ってきた技術を利用し、センサーデバイス間の通信が可能であるため広範囲のセンサーネットワークを構築できる。取得したデータは山頂などに設置した衛星IoTゲートウェイに集約して送信する。
Extreme IoTのイリジウム採用理由には実装のしやすさもある。イリジウムはAWSを利用したデータ処理が可能となっており、AWS運用経験の豊富なエイビットにとって連携は容易だったという。
Extreme IoTでは今後、カメラ画像データの送信や、自社開発したアセットトラッカーを利用し位置情報やバイタルデータの取得、災害現場やBCP対策にも活用を広げていく予定だ。「これまではあきらめていた場所でのIoT通信を提供できます」と都竹氏。Extreme IoTがIoTの活躍シーンを大きく広げていく。
<お問い合わせ先>
株式会社エイビット
新規事業戦略室
E-mail:sat-info@abit.co.jp
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