2015年9月19日土曜日

「生きる」、友の死に教わった 給食で亡くなった親友へ

沙清ちゃんの母と近況を話す和佳夏さん(右)。「近くにいられる気がする」と、沙清ちゃんの自宅を時々訪れ、線香をあげる
沙清ちゃんが小学4年の時に書いた詩「ちょっとちがう」

 中学2年の和佳夏(わかな)さん(13)は2年半前、幼なじみで親友の沙清(さきよ)ちゃんを亡くした。

 ロングヘアの前髪をピンで留めた、ちゃめっ気のある優しい女の子。沙清ちゃんが描いた絵を見せてもらうのが楽しみだった。いつも笑わせてくれ、けんかをしたことは一度もない。3人きょうだいの末っ子同士、気が合った。

 別れは、2012年12月20日。東京都調布市にある市立小学校の5年生だった。

 沙清ちゃんは乳製品に重いアレルギーがあり、給食は用意されたアレルギー対応食を食べる。対応食がない日は、母(53)が同じメニューを作ってくれた。グラタンやシチュー、パン……。帰宅した沙清ちゃんは「友達においしそうって言われたよ」とうれしそうに言った。

 あの日の給食には、チーズ入りのチヂミがあった。沙清ちゃんの分は、食べられないチーズが除かれた。みんなと違う黄色のトレーに置かれたのは、間違いを防ぐためだ。

 子どもたちには「不思議な味がする」と人気がなかった。和佳夏さんは4分の1を食べ、残りは友達に食べてもらった。

 チヂミが残ったので、担任がおかわりを募った。だが誰も手をあげない。しばらくして、沙清ちゃんが言った。

 「ほしいです」

 めったにおかわりをしないのに、何で? 和佳夏さんは不思議に思って尋ねた。

 すると、「完食記録に貢献したかったから」。さらりと返ってきた。「完食連続1カ月」「2カ月」。クラスで給食を残さないという目標を掲げ、カウントしていた。

 食べ終えて30分後、沙清ちゃんが不調を訴えた。呼吸が荒い。トイレに行ったきり戻ってこない。慌ただしく動く先生。教室で泣きじゃくる友達がいた。救急車のサイレンが近づく――。

 和佳夏さんも何が何だかわからない。「沙清ちゃんは大丈夫」と信じるしかなかった。だが帰宅後、亡くなったことを知る。どうしよう、どうしよう。混乱するだけだった。

 市の検証委員会の報告書によると、沙清ちゃんがおかわりをする際は、栄養士が作成した「おかわり表」を担任が確認するのがルール。チヂミにチーズが含まれ、おかわりをさせてはいけない×印があった。担任は確認を怠った。死因は「アレルギーで起きるアナフィラキシーショックの疑い」とされた。

 沙清ちゃんがいなくなった学校で、先生から「悲しいね」と声を掛けられるのが、和佳夏さんはたまらなく嫌だった。「沙清ちゃんのことをよく知らないのに言わないで」。悲しくて泣いた。派遣された相談員に問いかけられても話す気になれず、無表情で短く応じた。

 沙清ちゃんの思い出の歌を歌おうとしたら、先生から「みんなが思い出しちゃうかもしれない」と控えるよう言われた。「思い出しちゃ駄目なの? 悲しいだけじゃない。楽しい思い出だってたくさんあるのに」

 先生たちが、自分たちのことを気遣っているのは理解できる。でも、逆に傷ついた。忘れたくないのに――。

 クラスのみんなで劇をしても、合唱をしても、涙があふれた。「沙清ちゃんがここにいたらどうだっただろう」

 翌年の新盆、沙清ちゃん宅を訪ねたとき、母親同士が「どうしておかわりをしたんだろう」と話すのを聞き、ハッとした。「そうだ、まだ言ってなかった」。泣きながら、「あの日」のことを初めて説明した。

 沙清ちゃんの母はおかわりをした理由がわからずに苦しんでいたが、納得できた。「使命感の強い沙清らしい」と。

 沙清ちゃんは、科学者になってアレルギーの子どもを助ける研究をするのが夢だった。亡くなる数カ月前には「何かあったら、臓器提供してね」と頼んで母を困らせた。すると、「それで助かる命があるなら、そのほうがずっといいじゃない」と真顔で言った。

 周りの子が「あの子嫌だよね」と言ってきても応じない。悪口を言った子のことも気遣い、「そうかなぁ」とだけ言って話題を変えた。人はみんな、「ちょっと違う」ことをよく知っていた。

 「わたしは みんなと ちょっとちがう ちょっと しっぽが みじかいし ちょっと ひげが ながい でも ママが 『それでいいのよ』 っていってたの」。沙清ちゃんは4年生のとき、「ちょっとちがう」と題した詩を書いている。

 沙清ちゃんを亡くした後、和佳夏さんは、1人でいると混乱したが、友達や家族と沙清ちゃんの話をすることで死を受け止められるようになった。

 「沙清ちゃんは一生懸命に生きることを教えてくれた。いまもアレルギーの対策を訴えて、頑張っている気がする。これからも沙清ちゃんの思いを胸に、生きていきたい」(貞国聖子)

■大人は信じて待つこと大切

 喪失体験をすると、体に異変をきたしたり感情が動かなくなったりすることがある。臨床心理士早稲田大学本田恵子教授(55)は、大切な人を亡くした子どもたちへ「自分の心の声、体の声を聞いてあげて」と語りかける。

 ただ、苦しさを伴うので、一緒に作業をする人を見つけてほしいという。専門知識を持つカウンセラー、児童精神科医や、心に寄り添ってくれる信頼できる人がいい。

 大人はどう接すればいいか。

 「わかっていないのに、わかるよ、という偽りの受け入れをしない。あなたのことをわかりたいから教えて、と寄り添うことが大切」。「忘れなさい」は逆効果だ。子どもたちは大切な人のことを忘れたくない。

 また、聞きすぎても聞かなすぎてもいけない。

 「大変だったね」「悲しかったね」と投げ掛けるだけでは、子どもの感情をかき乱すだけで、さらに傷つけてしまう。亡くなった人の話題を不自然に避けるのもよくない。

 子どもが自然な気持ちで「喪の作業」ができるよう、これまでと同じように普通に接するのがいいという。「あなたはどうしたい?」と語り掛け、返事を待つ。「子どもは答えを必ず出す。大人は信じて待ち、子どもがやってほしいことをしてあげて」と話している。

     ◇

 〈食物アレルギー〉 文部科学省の2013年の調査によると、食物アレルギーがある小学生は4・5%。うち、じんましんや呼吸困難など複数の症状が急激に出るアナフィラキシーを起こしたことがある児童は0・6%だった。文科省は沙清ちゃんの死亡を受け、再発防止策を検討。今年3月、調理作業や教室での対応などを具体的に示した新たな指針を作った

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