ここ数年、腎がん(腎臓がん)の罹患者数が増加しつつある。国立がん研究センターの全国がん罹患モニタリング集計では、毎年1000~2000人増加しており、男性に限ると前立腺がんに次ぐ増加を見せている。
腎がんとはどのようながんなのか、また、腎がんの新たな治療法として研究が進んでいる「抗PD-1抗体」とはどのようなものなのか。順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科教授の堀江重郎医師に話を聞いた。
メラノーマではがん細胞がほぼ消滅することも
腎臓は腹部に左右1つずつ存在する臓器で、血液をろ過して尿を作るほか、血圧のコントロールや造血に関するホルモンを生成する。その尿の通り道となる「尿細管」という部位の細胞ががん化したものが「腎がん」だ。
「発症リスクには、肥満や喫煙があります。緯度が高く寒い地域で患者が多く見られ、高塩分や高脂肪な食習慣はリスク因子だと考えられます」(堀江医師)
早期発見し治療をおこなった場合の5年生存率(5年間生きられる確率)は90%以上とされているが、進行し腎臓以外への転移なども確認された場合、30%程度にまで落ち込む。しかし、早期では特徴的な自覚症状はなく、かなり進行した段階で血尿などが見られるようになるため、健康診断や人間ドッグで腹部超音波検査(エコー検査)を定期的に受診する必要がある。
現在、転移のある腎がんの主な治療法として知られているのは手術による切除、がん細胞が増える原因となる物質を排除する「分子標的療法」の2つ。分子標的療法は転移がある患者の生存期間を延長したものの、いずれ薬剤にがんが適応して効かなくなってしまう。そんな中、注目されているのが「抗PD-1抗体」という薬剤を使用する新たな免疫療法だ。腎がんではもともとインターフェロンなどの薬剤を用いる「免疫療法」が行われていたが、効果は小さかった。
「免疫療法は人体にもともと備わっている免疫機能を利用し、がん細胞を攻撃する治療法ですが、がん細胞は『PD-L1』というたんぱく質を持っており、これが人の免疫細胞の持つ『PD-1』というたんぱく質と結合すると、免疫機能が作用しなくなり、がん細胞を攻撃できなくなってしまうのです」(堀江医師)
抗PD-1抗体は、このたんぱく質の結合を阻害する薬剤で、抑え込まれてしまった免疫機能を正常に作用させる。つまり、自分の体でがんを克服する手助けをしてくれる、副作用の少ない治療法なのだ。日本では今のところメラノーマ(悪性黒色腫)にのみ保険適応となっているが、メラノーマではがん細胞がほぼ消失した例も確認されており、効果が期待される。
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