2016年1月18日月曜日

がんの転移を強力に抑制する既存薬を発見 肝炎治療薬 プロパゲルマニウム。 がんの転移を抑制

勉強の為に引用しました。
https://www.kyushu-u.ac.jp/f/6143/2015_01_03.pdf

九州大学

平 成 2 7 年 1 月 3 日
次 世 代 が ん 研 究 シ ー ズ
戦 略 的 育 成 プ ロ グ ラ ム
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九 州 大 学
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がんの転移を強力に抑制する既存薬を発見
 ポイント
 がんニッチの形成に関わる重要たんぱく質「Fbxw7」が「CCL2」を抑制する作用
を持つことを発見。
 Fbxw7が低下するとCCL2が上昇し、がん転移が増加する。
 上昇したCCL2を阻害するプロパゲルマニウム(既に肝炎治療薬として臨床的に使用されて
いる既存薬)によって、がん転移を強力に抑制することに成功。

次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム(P-DIRECT)の一環として、九州大学
生体防御医学研究所の中山 敬一 主幹教授らの研究チームは、がんニッチ注1)を制御する
重要なたんぱく質であるFbxw7注2)を発見し、既存薬であるプロパゲルマニウム注3)
(CCL2阻害剤)によって、がん転移を強力に抑制することに成功しました。
がん細胞の周囲には「がんニッチ」と呼ばれる細胞群が存在し、がん細胞の増殖や
転移を積極的に手助けしていることが知られています。特に血液由来の「線維芽細胞」や
「単球細胞」はがんニッチの構成因子として重要です。がん治療においては、がん細胞
だけでなくがんニッチも同時に消滅させる必要があります。しかし、どのようなメカニズムで
がんニッチが形成されるかについてはあまりわかっていませんでした。
Fbxw7はがんで多く変異が見つかっている分子ですが、ヒトでは体質的にFbxw7量が
高い人と低い人がいます。研究チームは乳がん患者の血液細胞を調べ、Fbxw7
の発現量が低い人はがんが再発しやすくなることを発見しました。またヒトと同じよう
に、マウスでFbxw7の量を下げる(人工的に遺伝子を破壊注4)する)と、がんの転移
が起こりやすくなることを見出しました。Fbxw7が低い状態では、がん周囲にいる線維芽細胞から「CCL2注5」とよばれるたんぱく質が過剰に分泌され、それががん細胞
の周りに単球細胞注6)を異常に呼び寄せて、がんニッチを作り上げていました。このCCL2の
働きを阻害するためにマウスにCCL2阻害剤であるプロパゲルマニウムを投与
すると、単球細胞の集積がみられなくなり、転移先でのがん細胞の増殖が抑えられました。
プロパゲルマニウムは既に肝炎治療薬としてヒトに使用されている薬物(既存薬)
であり、なるべく早い時期にプロパゲルマニウムの臨床治験を進めていく予定です。
本研究成果は、2015年1月2日(米国東部時間)に米国科学雑誌
「Journalof Clinical Investigation」で公開されました。
本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム(P−DIRECT)
研 究 領 域:「がん関連遺伝子産物の転写後発現調節を標的とした治療法の開発」
(プログラムリーダー:野田 哲生 (公財)がん研究会 がん研究所 所長)
研究課題名:「がんの増殖を制御するユビキチン化酵素群を標的とする治療薬の開発」
研究代表者:中山 敬一(九州大学 生体防御医学研究所 主幹教授)
研 究 期 間:平成23年4月~平成28年3月
P-DIRECT では次世代のがん医療を担う日本の優れた基礎研究のシーズを、製薬・医療機器業等
に受け渡すことのできるレベルまでに、効率的、かつ速やかに育て上げることができる新たな研究システムの早急な構築を目指しています。
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<研究の背景と経緯>
がん細胞はそれ単独で存在するのではなく、たくさんの周辺細胞に取り囲まれています。
近年、この周辺細胞ががん細胞の生存・増殖をサポートする「がんニッチ」を形成するこ
とがわかってきました(図1)。がんニッチ細胞は、がん細胞の成長に必要な成長因子など
を分泌したり、がん細胞を殺しに来た免疫細胞の機能を低下させたりすることで、がん細胞の
増殖や転移を手助けしています。このため、がん治療においては、がん細胞だけでな
く「がんニッチ」も同時に消滅させることにより、がんの進行が抑制できることが期待されます。
しかし、これまでのがん研究は、主にがん細胞自身の性質や変異について研究が
行われてきたため、がんニッチがどのようなメカニズムで形成されるかについてはあまり
知られていませんでした。これと同様に、これまでの抗がん剤は、がん細胞に働きかけて
細胞の増殖を抑制する作用を持つものが多く、がんニッチの消滅に働きかける抗がん剤は
ほとんど開発が進んでいませんでした。
Fbxw7はがん細胞でよく解析されてきたたんぱく質であり、これまでに細胞の増殖を
抑制する効果が知られてきました。研究チームは新たに、がんニッチにおけるFbxw7の
機能に着目して解析を行いました。
<研究の内容>
本研究チームはまず、乳がん患者の血液細胞のFbxw7の解析を行いました。その結果、
血液細胞のFbxw7量は個人により高低があり、Fbxw7の発現量が低い人はがんが再
発しやすくなることを発見しました(図2左)。乳がんの種類には主にホルモン受容体陽性
乳がん注7)、HER2陽性乳がん注8)、トリプルネガティブ乳がん注9)の3つが挙げられます。
このうち、もっとも悪性度の高いトリプルネガティブ乳がんを持つ患者さんのうち、
Fbxw7が高い人の再発は1割にも満たないのですが、低い人は5割の確率で再発して
しまいます(図2右)。この結果は、血液細胞中のFbxw7量を測定することで、がん患者の
予後が予測可能であることを示しています。
次に、血液細胞(骨髄細胞)でFbxw7を人工的に欠損させたマウスを作製し、がん細胞を
移植する実験を行いました。悪性黒色腫(メラノーマ)細胞、肺がん細胞、乳がん細胞
をマウスに移植したところ、全てのがん細胞で肺への転移が上昇しました(図3)。また、
Fbxw7欠損マウスではがん細胞移植後すぐに死んでしまいました(図4)。つまり、骨髄細胞の
Fbxw7が低下したことが原因となって、がん転移が起こりやすくなり予後不良
につながることが判明しました。
このマウスの肺をよく調べてみると、多数の骨髄細胞ががん細胞を取り囲んでがんニッチ
を形成していました。Fbxw7を欠損させたマウスのがんニッチには、多くの骨髄細胞、
とりわけ単球細胞がたくさん集まっており、この単球細胞ががん細胞の増殖を手助けしてい
ることがわかりました(図5)。さらに、Fbxw7を欠損させたマウスでは、単球細胞を
呼び寄せる効果を持つ「CCL2」とよばれるたんぱく質の発現量が上昇していることを
発見しました。つまり、Fbxw7の低下はCCL2の上昇を促し、がんニッチ形成を加速
していることが示されました。このCCL2を抑制できれば、がんニッチを消滅させる
ことが期待できます。
実際にCCL2の上昇の効果を抑制するために、Fbxw7を欠損させたマウスにCC
L2阻害剤であるプロパゲルマニウムを投与しました。その結果、がん転移部位に単球細3胞は
集積せず、転移部位でのがん細胞の大きさが著しく小さくなりました(図6)。
すなわち、既存薬を用いたCCL2抑制によりがん転移を抑制することに成功しました。
以上の結果から、がんニッチ細胞のFbxw7はCCL2量を制御することで、がん細胞の
転移を抑制している機能をもつことが明らかになりました。本研究により、がんニッ
チ形成機構の一端が明らかとなり、今後さらなる研究の進展が注目されます。
<今後の展開と応用への期待>
新薬の開発は成功率が低いことや莫大な資金がかかることから、近年その成功率は低下
してきており、代わって既存薬を別の治療疾患薬として適応拡大させる「ドラッグリポジショニング」が見直されてきています。本研究に用いたCCL2抑制剤(プロパゲルマニウム)は
既に医薬品として承認されており、これまで経口B型慢性肝炎治療薬として用い
られてきました。今後、本治療薬が実際にがん患者に対して転移抑制効果を持つかどうか、
治験を進めていきたいと考えています。

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