2016年4月26日火曜日

東大の研究者ら、若者特有の白血病の原因を特定



がんに関して言えば、年をある程度重ねた人のみが罹る病気ではありません。比較的若い思春期や、ヤングアダルト世代でも、がんに罹ることがあります。思春期やヤングアダルト世代によく見られるがんが「B細胞性急性リンパ性白血病※1」です。


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B細胞性急性リンパ性白血病はこれまでのところ、9割近くが原因不明とされてきましたが、このたび東京大学大学院 医学系研究科 分子細胞生物学専攻(細胞情報学分野)および、日本医療研究開発機構の共同研究チームによって、その病気の原因が特定されました。
若者の健康を蝕むその正体とは、「DUX4-IGH※2」「ZNF384 ※3」「MEF2D ※4」と呼ばれる3タイプの融合型遺伝子です。
B細胞性急性リンパ性白血病患者 73名の白血病細胞より、メッセンジャーRNA ※5を調整し、次世代シーケンサーと使って解析したところ、なんと「約 65パーセントのB細胞性急性リンパ性白血病の患者」において、いずれかの融合型遺伝子が直接的な原因として関与していることが見出されました。

なかでも最も多く観察されたのは、DUX4-IGH融合型遺伝子

これは全く新しいタイプのがん遺伝子であり、次いでZNF384融合型遺伝子、MEF2D融合型遺伝子が多いという結果となりました。
DUX4については、通常健常者の体内では発現しません。
遺伝性疾患として知られる顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーにおいて高発現し、細胞死が誘導されるものと考えられていました。
ところが、今回解析を進めた結果、「DUX4遺伝子がIGH座に挿入・融合 → 免疫グロブリン遺伝子転写調節領域の強力な作用が働く → DUX4-IGHが産出される」というメカニズムが働いていたことが新たに発覚しています。
さらに、筋ジストロフィーで観察された細胞死誘導能を失う代わりに、強い発がん能を獲得したというのです。
これら3つのがん遺伝子は、ごく稀に小児期に見られることはあっても、ほぼ思春期やヤングアダルト世代特有のものであることも分かりました。
DUX4-IGHや、ZNF384融合型がん遺伝子をもつ白血病は、予後が良好であったのに対し、MEF2D融合型がん遺伝子をもつ白血病の予後は最悪でした。
B細胞性急性リンパ性白血病の原因が今回、明らかにされたことで、今後分子標的治療法や予後予測診断法の開発に向け、なんらかの動きが期待できるでしょう。

【用語説明】
B細胞性急性リンパ性白血病 ※1
小児がんの中で発症率が高い癌。現在の治療法の進歩により寛解率は向上をみせているが、完全治癒は容易ではない。白血病細胞特異的に作用する新たな治療法が待たれている。
DUX4-IGH融合型遺伝子 ※2
DUX4 遺伝子は D4Z4 と呼ばれる繰り返し配列の中に存在しており、ヒト染色体 4 番と 10 番の長腕テロメア付近に 11-150 コピーの D4Z4/DUX4があることが知られている。正常な体細胞での発現がないため、以前は偽遺伝子(機能していない遺伝子)だと考えられていた。DUX4 遺伝子が産生するタンパクは転写因子として働くと予想され、細胞死を誘導する。
ZNF384融合型遺伝子 ※3
Zinc finger protein 384 の略。転写因子をコードする。TAF15、E2A、EP300 などと
融合してがん遺伝子となることが知られている。
MEF2D融合型遺伝子 ※4
MADS box transcription enhancer factor 2 polypeptide D の略。転写因子をコー
ドし、神経細胞の生存に重要な機能を持つ。DAZAP1、CSF1R などと融合してがん遺伝子となることが知られている。
メッセンジャーRNA ※5
DNAの情報を写し取るためのRNA

『出展』

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