スイスのロシュ・ホールディングなど製薬会社のトップ研究者は、がんとの闘いで莫大(ばくだい)な数の援軍を見つけようとしている。それは人間の体内のバクテリアだ。
  ロシュのジェネンテック部門でがん免疫療法研究責任者を務めるダニエル・チェン氏は電話インタビューで、「5年前、腸内バクテリアが全身免疫反応において重要な役割を果たしているかという質問を受けたとしたら、笑い飛ばしていただろう」とした上で、「現在、われわれ免疫学者の大多数は重要な相関関係が存在すると信じている」と説明した。
  
  チェン氏らがん免疫療法の治療薬開発に携わる研究者にとって興味深い2つの論文が最近、米科学誌サイエンスに掲載された。
  昨年11月にシカゴ大学の研究者らが発表した論文は、通常、消化管内に存在するビフィズス菌をマウスに投与したところ、皮膚がんの成長抑制で免疫療法と同程度の効果があったとしている。ビフィズス菌投与と免疫療法を併用すると、腫瘍の成長はほとんど止まったという。第2のフランスの研究者らの論文は、ある種のバクテリアによって免疫療法への反応が活性化するという内容で、バクテリアがなければ反応は起こらなかった。
  こうした研究結果を受け、ヒトの細菌叢(そう)への製薬会社の関心は高まった。チェン氏によると、ロシュは既にこの分野の基礎研究に取り組んでおり、がん治療への応用の可能性を調べる計画だという。
  しかし一部のベテラン投資家は懐疑的であり、がん治療薬として当局の承認を得るのは早くても5年後だとみている。