地球上の水の約97%は海水で、淡水はわずか約3%。淡水のうち実際に使える水はわずか0.8%程度です。世界人口の増加や途上国の都市開発などにより、2025年までに世界で3人に2人が安定的な水資源を得ることが難しくなると国連環境計画(UNEP)は予測しています。2050年には、2000年の世界の水使用量の1.5倍が必要になるといわれています。今回は、水不足問題の有効な対策とされる造水技術について探ります。 海水淡水化技術 ダムや川などの在来水源から水を得られず、人が住む場所と水源が離れているところは世界に少なくありません。水源の確保は死活問題です。海水や下水など非在来水源は、そのままでは使えませんが、手を加えることによって使えるようになります。「海水淡水化」と「下水再利用」という2つの造水技術の現状と今後の展望について、一般財団法人、造水促進センター常務理事の大熊那夫紀氏にうかがいました。 「いかに非在来水源から効率よく水を生み出すかが大事です。まず海水淡水化技術は、『蒸発法』と『RO(逆浸透)法』に大別されます。海水淡水化市場の3分の2はRO技術を採用していますが、RO膜における日本の膜メーカーのシェアは2分の1以上です。RO膜は、細かい孔(穴)を有する膜で、水より小さな分子しか通さないため、水中から塩類を除去して淡水を造ることができます。蒸発法に比べてエネルギー消費量が少なく運転維持管理も容易なため、さらにシェアの拡大が見込まれています」 米国のカリフォルニア、フロリダ、テキサス各州をはじめ、中東やアフリカなど慢性的な水不足に陥っている地域では海水淡水化設備が整備され、全世界で1日あたり6000万トンもの真水が海水から生産されています。 --海水淡水化技術で水不足問題は解消できるのでは? 「海水から塩分を取る技術が、水処理技術の中で一番お金がかかります。お金をいくらかけてもいいなら、いくらでも飲み水は造れますが、本当に必要なところ以外には海水淡水化は広がっていきません。海水から飲み水を造るより、下水から飲み水を造るほうが3分1のコストで造れます。立地的にも海水淡水化設備は海の近くに設置しなければいけません。その点、下水は水道があるところなら必ず出てきます。下水は非常に良い資源なのです」 広がる下水再利用 日本の下水再利用率は2%程度ですが、中東など慢性的な水不足に陥っている国では80%を超えています。 下水処理に適しているのは、日本が開発した膜分離活性汚泥法(MBR)をベースに、RO膜を組み合わせた下水再利用システムです。MBRでは活性汚泥(微生物)により下水中の有機の汚れを分解し、膜で濾過(ろか)して、病原性原虫類や大腸菌などの微生物、ウイルスを活性汚泥と一緒に除去し、清澄な水を取り出します。 1980年代後半に登場したMBRは、コンパクトな設備で良好な水質を得られることから、先進国や中国で急速に普及しています。日本の水処理業界も今後、官民連携でこのMBR-ROシステムを世界各地に展開していきたいと考えています。 「中東のドバイでは、労働者用キャンプから出る生活排水を処理するため、MBR-ROシステムが設置されています。下水のMBR処理とRO処理により、中程度の水質と高度な水質の再生水を製造しています」 中程度の水質のMBR水はトイレ用水や潅漑(かんがい)用水、高度な水質のRO水は、水道水と同程度の低価格でコンクリート練り水などの産業用水や地域冷房用の補給水として販売されています。 「あまり知られていませんが、中東の国々には、汚水をタンカーで運んで投棄し、湖のようにたまった“下水湖”が何十カ所も存在します。アラブ首長国連邦の“下水湖”の処理に、日本の大手水処理メーカーと現地法人の合弁会社が開発したMRBシステムが導入されましたが、信頼性の高い運転管理で、次の引き合いも来ています」 水再利用の世界市場は、中東や北アフリカで需要が拡大しており、2016年は09年の4倍の8000億円を超すと見込まれています。米国や中国でも設備投資が活発化しています。 水再利用の国際標準化 日本の上下水道インフラ市場は2000年をピークに縮小し、新しいマーケットは日本にはほとんどありません。そのため、国内の水処理メーカーは海外に活路を求めることになります。 フランスや英国では、100年前から上下水道などの事業を民営化し、水インフラビジネスが定着しています。設備の維持管理、運営などのノウハウを持つ海外の水メジャーに対抗し、日本の水処理メーカーがアジア市場に参入していくのは容易ではありません。 「日本製品は、使ってくれればその良さがわかります。しかし、問題は最初に受け入れられるかどうかです。最初は金額で判断され、水処理設備(プラント)が高いか安いかで決まってしまい、中国や韓国企業に価格競争で負けています。なんとか使う前に、日本製品の信頼度を分かってもらう方法がないかと考えて思いついたのが、国際標準化でした」 2013年6月、イスラエルが議長、日本と中国が共同幹事国のISO/TC282(水の再利用に関するISO専門委員会)が設立され、水処理技術全体のガイドライン作成に向けて、約40カ国が議論を進めています。 「日本が幹事国となり、主導的な立場で、水再利用に関する国際規格の策定を行える場ができました。現状打破に向け、日本の企業が少しでも優位になる仕掛けづくりができたらと思います。日本が培ってきた技術を世界に普及させるという気概をもって、日本企業には規格の策定に直接関わってほしいと思っています」 国際標準規格の策定の目標は2018年か19年。日本の先端技術を世界に広げ、水問題解決に寄与してほしいと思います。 ■まつもと・まゆみ 東京大学教養学部客員准教授(環境エネルギー科学特別部門)。上智大学在学中からテレビ朝日のニュース番組に出演。NHK-BS1ワールドニュースキャスターなどを務める。環境コミュニケーション、環境とエネルギーの視点から持続可能な社会のあり方を研究する傍ら、シンポジウムのコーディネーターや講演、執筆活動などを行っている。NPO法人国際環境経済研究所(IEEI)理事。
2016年10月15日土曜日
世界的な水不足の解決へ 日本の水処理メーカーが中韓に価格競争で負けている 現実
20:48
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