2016.10.25
抗炎症薬として用いられる「フルフェナム酸」を膀胱がん細胞に投与すると、阻害されていた抗がん剤の作用が回復し、転移したがんを効果的に治療できる可能性があるとする研究結果を、北海道大学大学院・医学研究科の田中伸哉教授と篠原信雄教授による共同研究チームが発表した。「フルフェナム酸」は非ステロイド系の抗炎症薬で、市販の消炎鎮痛剤や風邪薬などにも含まれる成分。
研究チームは膀胱がん、特に膀胱の壁の筋層に到達する深い浸潤がんの治療を研究してきたが、浸潤がんは抗がん剤への耐性を持ち、かつ肺などの離れた臓器に転移しやすいという性質があり、患者は再発を繰り返す傾向にある。
研究ではまず、人間の膀胱がん細胞を移植したマウスに転移が起きるのを待ち、原発(がんが最初に発生した)部位である膀胱と転移先の肺、肝臓、骨からがん細胞を採取。転移したがん細胞にだけ特異的な物質がないかを、約2万個の遺伝子を解析することで探索した。
すると、「アルドケト還元酵素(AKR)1C1」という酵素が通常の3~25倍に増加していることがわかった。さらに、膀胱がん患者25人の病理組織を調べたところ、マウスと同様に転移先でAKR1C1の増加が確認できたという。
AKR1C1はがん細胞の働きを活性化させ転移を促進し、さらに解毒作用を持つため抗がん剤に対する抵抗性にもつながっており、研究チームはAKR1C1の働きを阻害する成分を検討していた。
その結果、フルフェナム酸がAKR1C1に対し高い阻害効果を持つことがわかった。抗がん剤と併用することで、患者の予後の大幅な改善も期待できるという。高価な分子標的治療薬に対する、安価ながん治療法として提案できるよう、臨床研究を進めるとしている。
発表は、2016年10月4日、英科学誌「Nature」系のオープンアクセス誌 「Scientific Reports」に掲載された。
(Aging Style)
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