鹿児島県指宿市の滞在型がん治療施設、メディポリス国際陽子線医療センターは、乳がんを陽子線で治療する方法を確立し、早期乳がんの陽子線治療のみによる治療1例が無事終了したと発表した。3Dプリンターで作成した固定用装具を使うことで、実現した。
がんの陽子線治療は放射線治療の一種で、外科手術をせずにがん細胞を死滅させることができ、通院でも治療できることが特徴。同じ放射線治療でも、透過性の高い光子線(X線など)には目的とする部位の前後の臓器にも損傷を与えてしまう可能性があるという課題があるが、陽子線は体内の狙ったがん細胞部分のみにエネルギーを与え損傷させることができるという利点がある。
ただし、陽子線治療ではがんの位置や大きさを正確に把握する必要がある。例えば呼吸による動きも治療前にCTやMRIを使って詳細に把握しなければならない。そのため、胃や腸など不規則に動く(不随意運動のある)臓器のがんには適用できない。従来は、乳がんについても形が変わりやすい乳房がターゲットとなるため、適用されていなかった。
そこで同医療センターでは、3Dプリンターを使って乳房の固定装具を作ることで、乳房を固定し、照射する方法を開発した。乳がんの部位と心臓や肺などの臓器をできるだけ離すために患者をうつ伏せにした状態にして、10台のカメラで3回写真を撮影し、その30枚の画像データを基に3Dプリンターを使ってカップを作る。カップに若干のすき間があり、そこに粘着剤を塗布して乳房に張り付け固定するという。この固定装具があると、患者があおむけに寝た状態でも、理想的な形に乳房を固定できる。固定装具にオペレータが照射室に入らずに8カ所から同時照射できる「遠隔多門」タイプの陽子線照射装置と組み合わせることで、治療が可能になったとする。
今回の治療例は2015年6月16日~7月23日に治療を行い、その後2カ月経過した段階で特に問題が見つからなかったため、無事終了したとして発表した。「日本人の場合、乳がんは30~40代に発症することが多く、子供が小さかったり仕事があったりして、入院期間が2~3週間に及ぶ外科手術は難しい患者も多い。陽子線治療ができれば、こうした人も治療を受けやすくなる」と、メディポリス国際陽子線医療センター センター長の菱川良夫氏は話す。同医療センターでは、今後も乳がんの陽子線治療について研究開発をすすめるという。
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