聴衆を惹きつける強いメッセージで、類稀なプレゼンの才能を発揮したスティーブ・ジョブズ。持ち前の人を説き伏せる話術は、日々の打ち合わせの場でも発揮されていたようです。世界に最も名を馳せた起業家の、貴重なミーティング風景を映したドキュメンタリー映像から、今や語り草ともなっているジョブズのコミュニケーション術の要点を、Justin Bariso氏が抽出しました。
「情熱」と「意図」を明確にしたジョブズ独自の掌握術
ジョブズがAppleを辞めた後、1985年に設立したのが「NeXT」です。ここで、彼が新たに仲間となったメンバーたちに、自分の信念、プロダクトの方向性をどう伝え、共有していったのか?
共に働いた人々が口を揃えて言うように、リーダーとしてのジョブズは、気難しい一面を持っていたようです。
それでも、「情熱」と「意図」を常に明確に伝えました。洞察力に長けた彼が率いたチーム作りから、学ぶべき点がたくさんあるはずです。動画の中から、特徴的な4つのシーンをピックアップしました。
01.自分の使命やビジョンどう影響を与えるかを明確に
NeXTは、大学院や専門学校などの分野で使用できる、高性能コンピューター生産に焦点を絞りました。ジョブズは興奮気味にこうメンバーを説き伏せます。
「僕らは、物理学の学生に加速装置を与えることができるかい?生物学の学生たちに、500万ドルも出して遺伝子組換えのための実験室を用意することだってできやしない。だけど、それらをコンピューターの世界で実現させてあげることができる。僕らが目指すべきはそこなんだ」
次第にヒートアップしていきます。彼には明確なビジョンがありました。起業家として、チームリーダーとして、彼の信念をチームに共有していきます。そこには、極めて重要な彼の意志が反映されていました。
「僕らがすべきことは、今あるパソコンよりも10倍の性能で、しかも価格を引き下げること。それができれば、教育分野において革命が5年以内に起こるはずだ。これこそが、僕らが目指していくべきことさ」
02.優秀な人材を動かしタクトを振るう人間たれ
Appleの共同設立者スティーブ・ウォズニアックは、ジョブズとこんなやり取りをしています。
ウォズニアック:「キミはコードも書けなければ、デザインもできない。エンジニアでもなければ、金槌で釘を打つわけでもない。じゃあ、どうやって10倍も生産性をあげるつもりだい?キミの役割ってなんなんだ?」
ジョブズ:「僕にできることはただひとつ。オーケストラを束ねることさ」
ジョブズは、一人では決して成し遂げられないことを知っていたのです。優秀なエンジニア、デザイナーもマーケティングも必要。彼の天性の才能は、そうした優秀な人材をかき集め、プロジェクトとしてハーモニーを生み出し、相乗効果を引き出すことにありました。そうして、自分のビジョンを達成していったのです。
03.「NO!」を言うべき時をきちんと心得えよ
チームのメンバーが、会社の方針や優先事項から方向転換をしようとしている。ここでもジョブズの才能が発揮されます。
自分たちが設計するコンピューターの価格について、ジョブズは交渉の余地がないほど、かたくなに値段を上げさせませんでした。ここで最も重要なことは、経営者である彼が、自分たちの製品価値を決定づけるとき、その最優先事項が他社よりも圧倒的に安くていい製品でなければいけない理由を、明確に示したことにあります。
Appleのインダストリアルデザインを支えたジョナサン・アイブ。かつてジョブズに“精神的支柱”と呼ばれた男が、最近明かしたことがあります。ジョブズはほぼ毎日、彼にこう本音を漏らしていたそうです。
「なあ、キミは今日何回“NO”と言えたかい?」
04.会社の失敗は全員に非があると思え
CUPERTINO, CA – APRIL 08: Apple CEO Steve Jobs speaks during an Apple special event April 8, 2010 in Cupertino, California. Jobs announced the new iPhone OS4 software. (Photo by Justin Sullivan/Getty Images)
NeXT設立から3ヶ月後、ジョブズ率いるチームは、カリフォルニア州ペブルビーチの一室にこもり、ビジョンの共有を兼ねた合宿を行いました。進歩はあるものの、彼らの目指していたゴールには程遠い、厳しい現実が目の前にありました。ミーティングは、ジョブズのこんな言葉から始まります。
「みんな、ハネムーンはもう終わりだ。この結果は、僕自身も見えていなかったし、みんなだって予測できなかったはず。だけど、スタートアップ特有の闘志が感じられない。僕らは開発競争に負けた訳ではない。現に、勝利を手にしている部分だってある。だけど、小さな開発競争に集中しすぎてはいけない。僕らが目指しているのは“生き残る”ための製品なんかじゃない。世界を変えるためのものなんだ」
チーム全員にしばしの休息と、報酬を用意しておきつつも、ジョブズは、真っ先にこの厳しい言葉を選びました。業績の伸び悩みを、自分たち一人ひとりの背に背負い込む覚悟を求めたのです。
あなたが人の上に立つ人間ならば、誰かの意識を変えるためには、真っ先に自分が変わることがどれだけ必要かということがお分かりでしょう?常にそれを実践した人、それがジョブズという経営者でした。
類稀なるジョブズの掌握術と、卓越した技術力がありながらも、NeXTは約5万台のコンピューターを販売し、最終的にはハードウェア事業から撤退します。ですが1997年、AppleはNeXTを買収。そして、その条件の一環こそが、ジョブズをAppleの最高経営者として迎え入れるというものだったのです。
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