2015年10月16日 09時00分00秒
By Nick Saltmarsh
アメリカ・ハーバード大学などの研究チームが、ブタの遺伝子を改変することで人間に感染し得るウイルスを不活性化させることに成功し、ブタの臓器を人間に移植する「異種移植」の実現が現実味を帯びてきています。
Genome-wide inactivation of porcine endogenous retroviruses (PERVs)
http://www.sciencemag.org/content/early/2015/10/09/science.aad1191
Gene-editing method revives hopes for transplanting pig organs into people | Science/AAAS | News
http://news.sciencemag.org/biology/2015/10/gene-editing-method-revives-hopes-transplanting-pig-organs-people
Gene-editing record smashed in pigs : Nature News & Comment
http://www.nature.com/news/gene-editing-record-smashed-in-pigs-1.18525
ブタの臓器は比較的人間の臓器に大きさが似ているため、ブタの臓器を人間に移植できないかという異種移植の可能性が何十年にもわたって検討されてきました。しかし、ブタの臓器を人間に移植すると拒絶反応が生じたり、ブタの染色体に含まれるレトロウィルスの遺伝子がウィルスを生み出し人間に感染したりするという危険性が指摘され、実現は困難であると思われてきました。
そんな中、ハーバード大学のジョージ・チャーチ博士らの研究チームは、「CRISPR/Cas9」と呼ばれる技術を用いた「ゲノム編集」によって、ブタの遺伝子62個を同時に改変することに成功したと発表しました。
なお、生物の遺伝子を自在に設計できる、「神の領域」に踏み込んだ技術「ゲノム編集」については、以下の記事を読めばよく分かります。
遺伝子を自在に設計して生物の特性を変えられる神の領域の技術「ゲノム編集」とは? - GIGAZINE
チャーチ博士らは、ブタの腎臓上皮細胞を調べることで、細胞内に62種類のレトロウイルスに関係する遺伝子があることを突き止めました。そして、CRISPR/Cas9システムによってこれらの遺伝子にターゲットを絞り、遺伝子を破壊することでレトロウイルスを不活性化することに成功しています。
これまでのCRISPR/Cas9を使ったゲノム編集では、一度に改変できる遺伝子は最大6個であったのに対して、チャーチ博士らはその10倍以上の遺伝子を改変することに成功しており、RISPR/Cas9の開発者の一人であるカリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ドゥナ教授は、その劇的な効果は他の研究者の研究をさらに活性化させることになるだろうと高く評価しています。
今回、遺伝子改変によってレトロウイルスを不活性化したブタの腎臓細胞と人間の細胞を同じ環境内で培養したところ、レトロウイルスの感染力は1000分の1まで低下していることが確認されたとのことで、ブタの臓器を人間に移植する道が大きく開けたと言えそうです。
今後は、人間の免疫系に拒絶反応を生じさせる物質を特定したうえで、この物質に関するブタの遺伝子を改変することで、本格的な人間-ブタ間の異種移植にチャレンジする予定で、早ければ2016年に人に移植できる臓器を持つブタの受精卵を作る計画とのこと。この技術が確立すれば臓器移植の最大の問題点であるドナー不足は解決できると期待されています。
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