CIO Dive
「絶対にウケる新作」をAIで企画するNetflixのように、クリエイティブ領域にAIを生かす手法が注目を浴びだした。レガシー企業でもAIを活用する動きがあるが、そこには一定の条件がある。
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長らく業務改善のためのツールと考えられてきたAIが、ビジネスプロセスの早い段階、つまり製品設計に近いところで役割を果たし始めている。
2022年5月23日に開催された「MIT Sloan CIO Symposium」(マサチューセッツ工科大学スローンCIOシンポジウム)で講演したボストン大学クエストロムビジネススクール(Questrom School of Business)教授のマーシャル・ヴァン・アルスタイン氏によれば、AIの分析能力を新しい製品やサービス設計に利用することはエンタープライズITの有望なフロンティアだ。
サイロ化した社内データを統合し、外部のデータソースを活用することで、企業はダイナミックなAIエコシステムを構築し、イノベーションを促進し、効率を向上させ、新たなビジネスチャンスを生み出せるようになる。
重工業、金融、保険……製品開発にAIを取り入れるレガシー企業
製品設計に近いところでAIを活用できている組織の多くはデジタルネイティブだ。しかし、「幾つかのレガシー企業もこのモデルを踏襲している」とバブソン大学(Babson College)の情報技術・経営学教授であるトーマス・ダベンポート氏は述べる。
ターゲティング広告やカスタマサービスオートメーション、品質管理、物流などは、AIがビジネス上の有用性を実証している分野だ。ビッグデータと効果的に組み合わせれば、AIは製品開発の手法を再構築できるだろう。
既にAIを大規模に活用するUberやeBay、Meta(旧Facebook)に追随して、航空機メーカーAirbusや保険会社のAnthem、シンガポールの金融機関DBS Bankなどのレガシー企業もAIをシステムに組み込んでいる。
「この環境は『データのディズニーランド』のようなものだ」とダベンポート氏は言う。「『データのディズニーランド』があれば、AIモデルを改善でき、サービスを向上させ、顧客のフリクション(摩擦、ユーザビリティの不便さ)を減らし、より多くの顧客を獲得し、より多くのデータ獲得が可能になる」。
この好循環は、AmazonやeBayなどのWebサービスがデータを使って買い手と売り手をサイト上でマッチングしてEコマースを実現するように、機械学習を使った検索機能を通じて、全く新しい市場を生み出している。AIを使ったレコメンデーションシステムが強力なビジネスツールであることに変わりはないが、AIテクノロジーに対する新しい考え方が浸透しつつある。
「どうすれば売れるか」だけでなく「売れるものを作る」にAIを使う
Netflixは、レコメンデーションのアルゴリズムを軸にビジネスを構築した例の一つに挙げられる。同社は、成長するデータ資産とAIを組み合わせて開発プロセスの指針として活用し、ストリーミングコンテンツの制作を開始した。評価の高い番組「House of Cards」はこの手法を活用して作られたものだ。
Amazonも同様にオリジナル配信コンテンツ「The Marvelous Mrs. Maisel」でAIを活用したと、ヴァン・アルスタイン氏は述べている。
「レコメンデーションシステムは、既存の製品に基づいて『何が成功するか』を教えてくれるものだと考えられてきた。だが逆に、この仕組みを使えば、まだ存在しないモノを作ることもできる」とヴァン・アルスタイン氏は言う。
クラウドベースのAPIを使ってこのようなAIペアリングを実践する企業にとって、この仕組みは収益と時価総額のアップに寄与するものになるだろう。ヴァン・アルスタイン氏も参加した、APIを採用する200社を分析した2021年の調査によれば、AIに第三者とのやり取りから学習させた企業は2年間で4%、16年間で38%時価総額が増加したことが明らかになった。
しかし、サイバーリスクの危険性もある。「APIを外部公開すると、毎月1.2%の確率でハッキングされる。APIの利用は大きな利益を得られる一方で、管理しなければならないものも増える」とヴァン・アルスタイン氏は話す。
今あるデータを流通させるだけでも十分な収益になる
製薬会社Eli Lilly & CompanyのChief Data and Analytics Officerであるヴィピン・ゴパール氏は「リスクを負う余裕のない企業であっても利益を得られる」述べる。ゴパール氏は、製薬業界においては現在サイロ化されているデータを共有するだけで大規模な利益を得る機会があると指摘する。
「これはどの業界でも見られることだ」とゴパール氏は言う。「研究部門や臨床開発部門、包装部門、商業部門など、企業のさまざまな部門でデータがサイロ化されたまま成長してきた。企業のさまざまな部分に、ほとんど切り離された状態で膨大な量のデータが存在している」
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