PwCは「2022年AI予測調査日本版」を公開した。同調査からは日本企業と米国企業のAI活用の現状と両社の進んでいる点、遅れている点が明らかになった。日本企業がAI活用でまず始めるべきこととは。
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日本企業は一般に、米国企業と比較してAI(人工知能)活用が遅れていると言われているが、その実態はどうなっているのか。PwCコンサルティング(以下、PwC)が2022年5月19日に発表した「2022年AI予測調査日本版」から日米企業のAI活用を比較した。
同調査は2022年1月に、日本と米国でWebアンケートを実施した結果をまとめたものだ。回答者について、日本では、AI導入済みまたは導入を検討段階にある、売上高500億円以上の企業の部長職以上300人を対象にしている。米国では、AI導入済みまたは導入を検討段階にある、売上高5億ドル以上の企業の幹部1000人が対象だ。
日本企業53% vs. 米国企業55% きん差に迫ったAI活用
まずは企業のAI導入状況についてだ。AIの業務への導入に関する企業の現状を聞いたところ「AI導入企業」と回答したのは日本で53%、米国で55%ときん差だった。また「AI導入準備中企業」と回答したのは日本で11%、米国で18%、「AI未導入企業」と回答したのは日本で36%、米国で27%という結果になった。
PwCの中山裕之氏(PwC Japanグループ データ&アナリティクス リーダー AI Lab リーダー)は「米国企業のAI活用に大きな進展が見られなかった理由としては、2つの仮説が考えられます。1つは、米国といえども全てがAI先進企業というわけではなく、約6割というのはフォロワーを含め、ある意味“シーリング”(天井)に達した数字なのではないかというものです。もう1つは、米国企業は短期的に成果を求める傾向にあり、コロナ禍に起因した経済停滞を受け、一部のプロジェクトがストップしているという仮説です。どちらがより真実に近いのか、2023年以降も注視する予定です」と語る。
米国に比べて後れているのは、ROI測定能力とAIガバナンス実施度合い
米国に追い付いたのは彼らの足踏みによるところも大きいが、日本でAIを活用する企業が増加しているのも事実だ。その陰には、経済産業省が発表した「DXレポート」によって、日本企業の中でデジタルトランスフォーメーション(DX)の機運が高まったことや、“一部のイノベーターを追って多くのフォロワーが動き出す”という日本ならではの特徴も関係していると中山氏はみている。
しかし日本も順風満帆というわけではない。米国に比べて後れている点が幾つかあり、その1つがROI(投資対効果)測定能力だ。今回の調査では、「AI投資のROIを正確に測定できている企業の比率」が、米国が64%であるのに対して、日本は21%にすぎなかった。また、各種AIガバナンス対策の実施比率も、全ての項目で米国企業が優っている。
PwCの藤川琢哉氏(データ&アナリティクス リーダー)は「AI活用では、PoC(概念実証)から始めて成果が出たら全社に展開して効果を刈り取っていくという進め方が重要です。しかし日本企業においてはまだ“PoCを実施するだけ”という状況が散見されます。AIガバナンスについても、米国企業はルール制定だけでなくアクションまで落とし込めているのがグラフから見てとれます。日本企業は検討が進んでいるもののアクションに至っていないというのが現状です」と話す。
藤川氏によれば、AI活用をする上では、自社で主導権を持って進める“内製化”や“自走化”という観点も欠かせない。AI活用が進む企業は「テーマの創出・企画」という点などで内製化が進んでいるが、スポットライトが当たっていないフェーズもある。それが「運用改善(MLOps)」だ。企業が2022年に取り組みたいと挙げた内製化フェーズは、「テーマの創出・企画」が47%だったのに対して、「運用改善」は23%にとどまっている。
「AI活用はトライ&エラーを繰り返して成功事例を見つける作業ですから、活用の効果を最大化するフェーズというのは運用改善にあります。ここを内製化するのが一番重要で、注目度の低い現状は日本企業におけるAI活用の大きな問題点だと考えています」(藤川氏)
他のテクノロジーとの融合やデータ流通という新トレンドも
この他、今回の調査では日本企業のAI活用に関する新たなトレンドも明らかになった。中でも藤川氏らが注目しているのは「AIと他のテクノロジーの融合」だ。AI単独での活用が一段落した現在、AIと別の技術を組み合わせて新たな問題を解決する動きが出てきている。
組み合わせる技術としてはIoTやロボティクス(RPAは除く)、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)/メタバース、3Dプリンティング、ブロックチェーン、ドローン、量子コンピュータなど多岐にわたる。全ての項目で50%以上の企業が「現在検討中」以上のステータスにあることが分かった。
これに加えて「データ流通」もトレンドの一つだ。データを社内だけでなく外部に流通させたり、逆に外部のデータを社内で利用したりと、企業横断でデータを活用し、より大きな課題の解決を図る取り組みが活発化している。今回の調査からは「現在検討中」というステータスを合わせると、実に70%もの日本企業がこのテーマにすでに取り組んでいた。
ROIを測って効果を最大化し、社会に受容されるAI活用を目指す
今回の調査結果を受けて、今後AI活用を進める日本企業にアドバイスするなら、それはどのようなものになるのか。
「PoCのROI測定は確実に実施していただきたいと思います。客観的に評価をした上で、効果を最大化する取り組みが、これからの日本企業には求められます。また、今後AIはさらに広がり、社会基盤になっていきます。そこで社会に受容されるようなAI活用を目指すためには、きちんとAIガバナンスに取り組み、その取り組みを対外的に発表していくことで、顧客に安心・安全を届けるという姿勢が今後重要になってくるでしょう」(藤川氏)
AI投資は初期段階にあり、厳密にROIを測定したら前へ進めなくなるリスクはあるが、中山氏はそれでも振り返ることが必要だと話す。
「米国企業ではROIを測定したからAI活用が進まなくなったという仮説が出ています。しかしAI活用はなかなか思うようにいかないものなので、実施ことを振り返ることが大事だと思っています。意味があるものだったのかどうか考え、最初から100点は取れないので学びを得ながら徹底的にやりこむ。そのためにも振り返りとしてのROI測定は重要だと考えています」(中山氏)
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