100円で家が買えるマッチングサイト「空き家ゲートウェイ」とは?

2019年7月、100均物件のマッチングサイト「空き家ゲートウェイ」がオープン。8月に行われたトークイベントの参加者の中には空き家のオーナーだという人が2割ほど。物件オーナーからのサイトへの問合せは150件を超えているという2019年7月、100均物件のマッチングサイト「空き家ゲートウェイ」がオープン。8月に行われたトークイベントの参加者の中には空き家のオーナーだという人が2割ほど。物件オーナーからのサイトへの問合せは150件を超えているという

「100円で家が買えますよ」と言われたら、だいたいの人が「え? どういうこと?」となるのではなかろうか。

2019年7月、日本中の100均物件を網羅するマッチングサイト「空き家ゲートウェイ」が誕生した。
タイニーハウスやモバイルハウスに関するメディア運営、企画開発を行うYADOKARI株式会社と、株式会社あきやカンパニーが運営する空き家流通サービス「カリアゲJAPAN」がタッグを組んでつくった、空き家を楽しむためのプラットフォームだという。「手放したい人」が物件情報を提供し「使いたい人」に情報を届ける、100均物件マッチングサイト「空き家ゲートウェイ」とはいったいどんなものなのか。

2019年8月21日に行われたサイトオープン記念のトークイベントは、60枚のチケットが3日でソールドアウト。ライブ視聴チケットも100枚の予定を大幅に上回る190枚を売り上げたというから、注目度の高さがうかがえる。
この「『空き家ゲートウェイ』が目指すもの、100均物件の可能性」と題したトークイベントの内容を含めて、同プラットフォームを紹介してみたいと思う。

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「空き家ゲートウェイ』が目指すもの、100均物件の可能性」
【登壇者】
●市来 広一郎氏
株式会社machimori代表取締役/NPO法人atamista代表理事

●福井信行氏
株式会社ルーヴィス、株式会社あきやカンパニー 代表取締役

●久保暁育氏
株式会社あきやカンパニー 取締役社長

●さわだ いっせい氏
YADOKARI株式会社 共同代表取締役 / 共同創業者

モデレーター
●川口直人氏
YADOKARI株式会社 Tinys Yokohama Hinodecho 統括マネージャー

1軒の空き家に対し150~200件の応募が寄せられる

サイトに掲載される100均物件の一例。※掲載後30日で応募は締め切られる<br>
【写真上】「最寄りは湖 U-30 花山代表求ム!」宮城県の花山。地域を盛り上げてくれる若者に100円で譲りたいというオーナーの意思から、30歳以下の活用希望者を募集。湖の近くで自然に囲まれた築40年の平屋だ<br>【写真下】広島県の100万円物件「瀬戸内海がホームグラウンド?」。しまなみ海道の沿線・映画のロケ地として知られる向島にあり、リノベしながら暮らしたい人には最適な古民家物件サイトに掲載される100均物件の一例。※掲載後30日で応募は締め切られる
【写真上】「最寄りは湖 U-30 花山代表求ム!」宮城県の花山。地域を盛り上げてくれる若者に100円で譲りたいというオーナーの意思から、30歳以下の活用希望者を募集。湖の近くで自然に囲まれた築40年の平屋だ
【写真下】広島県の100万円物件「瀬戸内海がホームグラウンド?」。しまなみ海道の沿線・映画のロケ地として知られる向島にあり、リノベしながら暮らしたい人には最適な古民家物件

“100均”というキャッチーなフレーズがとにかく目を引くが、まずその仕組みを紹介しよう。

●掲載を希望する物件オーナーがサイトにて査定依頼
●100均物件と確定されればサイトにて紹介
●活用希望者が応募
●希望者の中から物件オーナーが購入者を決定する
という流れ。

100均物件の査定基準となるのは「手放したいけど値段がつかないとか、売れないという物件」(さわだ氏)かどうか。ある程度の値がつく資産価値のある物件はここには掲載されない。

現在サイトには
◆100円物件
「北軽井沢の星~北欧ヴィンテージ家具の深みある艶と北軽井沢の別荘地の雰囲気がマッチ~」(群馬県)
「年がら年中海の家!?〜 細道を奥に進むと見える小さな家〜」(島根県)
「最寄りは湖 U-30 花山代表求ム!~地域を応援したいオーナーの思いが詰まった家~」(宮城県)
◆100万円物件
「瀬戸内海がホームグラウンド?〜要・修繕、ただしいい感じの畑もあります〜」(広島県)


といった物件が紹介されている。
タイトルも紹介文もユニークで、ここには空き家がもつネガティブな要素をワクワクするものに変えていきたいという想いが感じられるものばかり。

物件の掲載依頼は150件を超える。自宅、別荘、民泊施設、店舗、サテライトオフィス、ペットホテルにしたいなど、多種多様な活用希望も寄せられているそう。
活用者の募集は最大で30日で締め切られ、その後、オーナーにより購入者が決定される。1つの物件に対してそれぞれ150~200件の活用希望があり、予想以上の反響となっているとのことだ。

値のつかない物件を宝物に変えられるかどうかは使う人次第

オーナーの負担はゼロ、成約時の手数料もゼロ、土地付き家付きで100円、もしくは100万円。
ただ、必要経費として修繕費のほか、測量の費用や手続きのための司法書士の報酬、固定資産税の分担などが発生するが、購入者の出費は「多く見積もっても100万円いかないくらい」(さわだ氏)だという。

しかし、いくら100円・100万円といっても“安物買いの銭失い”になりかねないのでは?という意見も聞こえてくるそう。それに対する登壇者の意見はこうだ。

「リスクも含めて楽しめるという人には価値があると思うので、常識に守られた範囲内での価値基準ではなく、個人が感じる価値、例えば、道幅が狭くて車は入れないけどいい眺望があって価値があるよね、とかそういうところに空き家の可能性や価値があるのではないか」(久保氏)

「安全だと思っているから、そうじゃなかった場合にリスクになる。危険があることもわかっていて買う分にはリスクにはならない」(市来氏)

「自分にとって何がメリットでリスクかは、空き家を見て自分で判断すればいい、それができることが一番幸せなことなんじゃないかと思います」(福井氏)

つまり、へき地であってもボロボロだったとしても、そこに魅力を見いだせるかどうかがポイント。

さらに福井氏は
「食べ物は何十年も前から自分たちで選択できる暮らしになってきましたよね。でも不動産は誰かが建てたものを言われたとおりの値段を払って買うもので、今まで成熟してこなかった。それが、空き家をきっかけにようやく成熟できるチャンスが訪れたのではないかと思っています」
とコメントした。

値のつかない物件を宝物に変えられるかどうかは使う人次第というわけだ。

京急電鉄の高架下にタイニーハウスを使って造られた複合施設「Tinys Yokohama Hinodecho」(横浜市日ノ出町)で行われた、「空き家ゲートウェイ」オープン記念トークイベント。<br>写真は1部:「空き家ゲートウェイが目指すもの、100均物件の可能性」(左からYADOKARI川口直人さん、 あきやカンパニー 久保暁育さん、YADOKARIさわだいっせいさん、ルーヴィス、あきやカンパニー福井信行さん)の様子。<br>2部では「熱海machimoriに学ぶ、空き家・空き店舗の先進活用事例」と題しmachimori ・市来広一郎さんが登壇。 平日の夜にもかかわらず多くの人たちが訪れた(筆者撮影)京急電鉄の高架下にタイニーハウスを使って造られた複合施設「Tinys Yokohama Hinodecho」(横浜市日ノ出町)で行われた、「空き家ゲートウェイ」オープン記念トークイベント。
写真は1部:「空き家ゲートウェイが目指すもの、100均物件の可能性」(左からYADOKARI川口直人さん、 あきやカンパニー 久保暁育さん、YADOKARIさわだいっせいさん、ルーヴィス、あきやカンパニー福井信行さん)の様子。
2部では「熱海machimoriに学ぶ、空き家・空き店舗の先進活用事例」と題しmachimori ・市来広一郎さんが登壇。 平日の夜にもかかわらず多くの人たちが訪れた(筆者撮影)

「空き家をおもちゃみたいなものだと思って楽しめばいい」

物件名「北軽井沢の星」。 執筆業を営むオーナーから2年前にYADOKARIが譲ってもらったという軽井沢の別荘。屋根、バルコニー、床、壁、塗装、水回りをYADOKARIメンバーらで一新して一時的に友人らと使っていたが、今回の「空き家ゲートウェイ」で100円物件として掲載された物件名「北軽井沢の星」。 執筆業を営むオーナーから2年前にYADOKARIが譲ってもらったという軽井沢の別荘。屋根、バルコニー、床、壁、塗装、水回りをYADOKARIメンバーらで一新して一時的に友人らと使っていたが、今回の「空き家ゲートウェイ」で100円物件として掲載された

「昔は別荘ってお金持ちのステイタスだったけど、100円、100万円で別荘が持てるなら友達同士で持つことも可能だろうし、おもちゃみたいなものだと思って気負わずに遊べばいいと思うんです。それくらいポジティブに捉えたほうが発展もありそうだし、いろんな人に共感してもらえて連鎖が生まれてくるかもしれないですよね」とさわだ氏。
実際にさわだ氏は、タダで譲り受けた別荘をYADOKARIのスタッフと一緒にリノベーションし、友人が集う遊び場として使っていたそう。

実は、YADOKARIが運営する別荘を扱うメディアには「タダでもいいから物件をもらってくれないか」という問合せが月に20件ほど寄せられているという。
「そういうタダでもいいとか、値がつかない日本中の空き家物件を網羅するサイトを作ってみたらどうか」と考えたのが今回の「空き家ゲートウェイ」の始まりだとさわだ氏。

築30年以上の空き家を借り上げて運用するカリアゲJAPANの創業者で、空き家流通のノウハウをもつ福井氏に相談し、オーナーへの訴求力が高いカリアゲJAPANと、ユーザーへの認知度が高いYADOKARIがタッグを組む形で、「空き家ゲートウェイ」が誕生したというわけだ。

「空き家を楽しむ」という姿勢でイノベーションを

◆空き家オーナーからの掲載依頼は150件を超える。サイトには順次掲載していくとのこと。<br>◆サイト内のコラム「素晴らしき空き家の世界」では、空き家を有効活用している人たちのインタビューが掲載されている。「例えば、それぞれの記事に、『相談する』とか『依頼する』っていうボタンを作って、それをクリックするとコラムに掲載されている人に直接相談できたりっていうシステムを作るのも面白そう」とさわだ氏。ワクワクはどんどん広がっていきそうだ◆空き家オーナーからの掲載依頼は150件を超える。サイトには順次掲載していくとのこと。
◆サイト内のコラム「素晴らしき空き家の世界」では、空き家を有効活用している人たちのインタビューが掲載されている。「例えば、それぞれの記事に、『相談する』とか『依頼する』っていうボタンを作って、それをクリックするとコラムに掲載されている人に直接相談できたりっていうシステムを作るのも面白そう」とさわだ氏。ワクワクはどんどん広がっていきそうだ

YADOKARI、カリアゲJAPAN、両者に共通しているのは「空き家を楽しむ」という姿勢。

「一般的に空き家問題って“問題”って言っている時点でネガティブに捉えがち。でもこの先どんどん空き家は増えていくし、30年、50年後も僕たちは向き合わなきゃいけないことです。
“問題”って捉えて暗くなっちゃうのは嫌だなと思うから、『カリアゲJAPAN』も『空き家ゲートウェイ』も楽しくイノベーションを起こせるようなプロジェクトにしていきたいという思いがあります」と福井氏。

久保氏も
「今回の『空き家ゲートウェイ』では、CtoCというユーザー同士のプラットフォームが完成した。これは不動産流通の革命になっていくと思います」と話す。

さわだ氏は、自治体の空き家バンクとの連携や「仕事付き100均賃貸」の可能性も語っていた。
「例えば、山梨県は林業が盛んで山師の仕事があるので、山師の仕事をしてもらって100円で空き家に住んでもらう」システムだという。人手不足の解消と空き家問題をセットで捉える試みだ。これが実現できれば、また新たな空き家流通の道が開けるかもしれない。

「これからは、東京や横浜に住みつつも地方に100円で買った家があって、そこで遊べるという時代になっていく。100円で買える家なんて世界的にみてもないと思いますし、新しい選択基準になってきたら面白いと思っています」という福井氏。

新しいユーザーたちが100円、100万円の空き家でどんなワクワクを育てていくのか―。
「空き家ゲートウェイ」の動きに注目していきたい。


【取材協力・写真提供】
「空き家ゲートウェイ」
https://akiya-gateway.com/

2019年 10月10日 11時00分