https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02705/021200037/
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「AI for Science」は、科学研究で用いるAI(人工知能)技術や同技術を研究開発する取り組みのことである。AIで科学研究におけるプロセス全般を自動化することで、材料探索や化合物設計などの科学研究を加速させる狙いがある。
分かりやすい事例が、米Google(グーグル)傘下の英Google DeepMind(グーグル・ディープマインド)が開発した、タンパク質の立体構造などを予測するAI「AlphaFold」シリーズだ。タンパク質の立体構造を高精度かつ短時間で予測し、創薬やライフサイエンス、バイオテックなどに大きな影響を与えた。2024年5月発表の「AlphaFold3」では、タンパク質だけでなく、DNAやRNAなどの分子の立体構造にも対応するなど、性能向上が続き、活躍の場が増えている。
米Microsoft(マイクロソフト)もAI for Scienceに関連する活動に力を注いでいる。例えば同社は、材料探索用の生成AI「MatterGen」を2025年1月に発表した。物質の3次元(3D)形状に作用する拡散モデルだ。特定のアプリケーションで求める材料の要件をプロンプトとして入力すると、その要件を満たす新材料を生成する。化学的や電子的、磁気的な特性を持つ様々な材料を生成できる。未知の材料の発見にアクセスできる点が特徴だという。
2024年1月には、米パシフィック・ノースウエスト国立研究所(PNNL)と共同で、電池の新材料を発見したと明らかにしている。AIを活用したマテリアルズ・インフォマティクス(MI)技術によって材料探索することで、わずか約1週間で、固体電解質の新しい材料を18種類発見した。
半導体メーカーもAI for Scienceを支援している。米NVIDIA(エヌビディア)は、医療・ヘルスケア分野でのAIの構築・利用を促すために、半導体製品やサービス、ツールなどを提供している。中でも創薬分野に注力しており、AIモデルやシミュレーションアプリを無料で大量に公開している。創薬の中でも、パーキンソン病やアルツハイマー型認知症といった中枢神経系障害の治療薬やがんの治療薬でのAI利用が多いとする。
日本では、オムロンの研究開発子会社であるオムロンサイニックエックス(OSX)や理化学研究所などがAI for Scienceの活動に力を注いでいる。Sakana AI(サカナAI、東京・港)のようなスタートアップも登場しており、勢いが出てきた。
ロボットとの連係が鍵
これまで紹介した事例は、あくまでAI for Scienceの一部である。AI for Scienceは、AIによる科学的な発見や洞察の自動化と、AIによるラボ(研究室)レベルの実験の自動化の2つがある。前者は、人間の直感や経験に依存していた発見や洞察のプロセスにおいて、大規模言語モデル(LLM)などの生成AIを活用して物理的なデータから何らかの法則を発見したり、複雑な方程式を導き出したりする技術の研究開発が進む。人間の発見を超える成果を期待できる。
後者の実験の自動化については、化学や材料科学、生命科学などの分野において、AIとロボット技術を組み合わせて実験の内容設計や実行、結果データの解析といった一連のプロセスを自動化する。これにより、実験の効率や再現性を高めたり、人為的ミスを削減したりする。
既に「ウエットプロセス」と呼ばれる、液体を扱う実験では自動化装置が製品になっているが、粉体を混ぜたり、砕いたりするような「ドライプロセス」は研究開発テーマの1つになっている。
AIによる科学的な発見や洞察の自動化はコンピューター内で完結する場合もあるが、実験の自動化は物理的な作業が伴うため、ロボット技術の研究開発も必要であり、ハードルが高い。人間のような柔軟性を持ちつつ、ロボットとしていかに高速に作業できるかが、重要になる。
科学研究に用いるAIの研究開発をAIで自動化
科学研究に用いるAIの研究開発を、どこまでAIによって自動化できるかも科学研究を効率化するには不可欠になる。つまり、AIによるAI研究の自動化である。
代表的な研究成果が、サカナAIのシステム「AI Scientist」がある。AI研究のほぼ全てのプロセスを自動化できる。研究アイデアの生成、コードの実装、実験の実行、結果の可視化・分析、論文執筆、そして査読プロセスまでをすべて自動で行う。人間の介入なしに、科学的発見から論文執筆までをAIが実行する。各プロセスにおいて、既存のAI技術を利用し、それらを適切に組み合わせて、一貫した内容の論文を生成できる。
そのため、AI Scientistのインパクトは大きく、その論文が公表されてから、同種の研究成果が世界中から次々と発表され、活発化した。
AI Scientistなどにより、AI研究のほぼ全てのプロセスを自動化できた。次は、AI研究のプロセス全体を自動化できるAIシステムを、自動で設計可能にする研究である。AI Scientistの場合、AIシステムは人手で開発されていた。
AI for ScienceはAIやロボット、化学、生命科学など、多岐に渡る分野での協調が求められる。そのため、分野横断的な活動を行うことも重要な点になっている。世界横断的な活動としては、「ノーベル・チューリング・チャレンジ」がある。AIによって高度かつ自律的な科学的発見を可能とするシステムを構築するということを目標に掲げている。ソニーグループ副社長で最高技術責任者(CTO)の北野宏明氏が中心となって提唱し、活動している。同社としてではなく、北野氏個人、及び沖縄科学技術大学院大学(OIST)教授としての活動だという。
日本では、「AIロボット駆動科学」がある。AIと実験ロボットを利用して科学研究プロセスそのものを再定義しようという活動だ。OSXや理化学研究所、東京大学、京都大学などが参加している。
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