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米製薬会社ターリング・ファーマシューティカルズのマーティン・シュクレリCEO(32)が12月17日、証券詐欺の疑いで逮捕された。エイズのほか、一部のがん患者などが感染するトキソプラズマ症の治療薬「ダラプリム」の販売権を買い取り、1錠当たりの価格を13.50ドル(約1640円)から750ドル(約9万円)に引き上げた同CEOは、厳しい批判を浴びていた。

非常に角々しくて議論好き、というのがシュクレリ容疑者の社会的人格だ。それが彼自身に悪い結果をもたらすのは時間の問題だった。そして、起業家やリーダーたちは、同容疑者から多くを学ぶことができる。その一つが、グーグルは正しい、「邪悪になってはならない」ということだ。起業家は自らの努力によって、次の3つの特性を身につける必要がある。

自己認識能力
シュクレリ容疑者は報道陣の前で、全く己を知らないかのような態度を見せる。これは、その人の地位に関係なく、態度の悪い全ての人物にみられる共通の特性だ。これらの人物は大抵、無意識のうちに攻撃的な態度や、適切な判断に基づかない態度を取る。そして、その態度が自身の人間関係や属する組織にどのような悪影響を及ぼすか理解できていない。人は、己を十分に理解し、己の過ちを認めることができる人にこそ寛大になれるものだ。

自己認識能力を養うための第一歩は、ストレスや不安、否定的な感情の原因となっている物事を理解し、自分がそれらを抱えていることを認めることだ。そうすれば、自らの誤りを受け入れることができるようになる。起業家にとって、人間の特質として最も称賛に値し、有益なものの一つは、自分自身の誤りを認めた上で、前進できる能力だ。

謙虚さ
自己中心的な人物と付き合いたい人はいない。また、自分が他人より優れている、あるいは自分は規則に当てはまらないと考える人物ほど、不愉快なものはない。実業家として成功していた父は常に私に、「謙虚であれ」と言っていた。

「誰もがいつか失敗する。叩きのめして追い出してやる、ではなく助けてあげよう、と周囲から思ってもらえるようになるために、いつも謙虚でいなさい」と。私はこの言葉を肝に銘じて生きてきた。そして、この言葉には真実味があると思う。あなたが謙虚であれば人は必ず、あなたの失敗と不幸を喜ぶのではなく、あなたを育てようとしてくれるはずだ。

共感する力
自分が他人に期待する行動を、まずは自分が実行する。あまりに単純で、陳腐なことに聞こえるだろう。だが、この黄金律に従う限り、過ちを犯すことはない。私たちが生きる現代社会には他人への共感が大きく欠如しており、その影響は広範囲に及んでいる。共感するということは、情に流されるということではない。反社会的な行動を取るべきではないということだ。そうした行動は、自らに損害を与え、他人を困惑させる。

シュクレリ容疑者が共感する能力に欠けていたことは間違いない。自己中心的な考えが、彼を窮地に陥れたのだろう。強欲、不誠実、攻撃性を駆り立てるのは、共感する心の欠如だ。共感する心は、仲間や顧客、パートナーとの健全な関係を築くための要なのだ。自分以外の人を尊重していれば、誤った方向へ進むことはほとんどない。

「邪悪」になろうとする起業家はいない。だが、道徳的な面での小さな妥協の数々は、時間と共に積み重なり大きくなっていく。そして自尊心と身勝手さは、簡単に心の中に根を張ってしまう。そしてこれらがやがて、シュクレリ容疑者が起こしたような、ひどい問題を引き起こすのだ。謙虚さと共感する心を持ち、己を知るために日々努力をしていけば、必ずその大きな恩恵を得られるはずだ。

編集 = 木内涼子