制がん剤の開発に向けて
東京大学分子細胞生物学研究所の丹野悠司助教と渡邊嘉典教授らの研究チームは、細胞のがん化につながる染色体の不安定性の分子メカニズムを発見しました。本成果は、がんを抑える薬の開発の新たな標的候補になる可能性が期待されます。
私たちの体を作る細胞は、日々細胞分裂によって生まれる新しい細胞に置き換えられています。細胞に含まれる染色体は、セントロメアと呼ばれる染色体の中心領域で接着していますが、新しい細胞が作られる際には、セントロメアに微小管が結合し、引っ張られることによって分離し、染色体が親細胞から娘細胞へと分配されます。この染色体の分配に異常が発生すると、娘細胞に引き継がれる染色体の数が増減する染色体の不安定性につながります。染色体の不安定性は、ゲノムの不安定性をも誘発し、多くの遺伝子の発現の変動やタンパク質の機能異変をきたし、細胞のがん化およびその悪性化を促進すると考えられています。染色体の不安定性を引き起こす、染色体の分配の分子機構がわかれば、がんの治療に有用な薬を開発できる可能性があります。しかし、この分子機構については、種々の可能性が指摘されていましたが、その主要な分子機構は分かっていませんでした。
今回、研究チームは、インナーセントロメア・シュゴシン(ICS)ネットワークと呼ばれる、細胞分裂の時期に染色体のセントロメアに形成され、複製した染色体のセントロメアの接着を守り、かつ染色体のセントロメアと微小管の誤った結合を修正する働きに注目しました(図)。そして、種々のがん組織由来の染色体の分配異常を示す細胞株を調べると、14株中12株にICSネットワークに異変があることを見出しました。重要なことに、多くのがん細胞株(9株中7株)でICSネットワークの欠損を人工的に補強することにより、染色体分配の誤りが抑えられることが分かりました。
「ICSネットワークの異変は、肺、大腸、皮膚、骨組織に由来するがん細胞株のいずれにも見られました」と渡邊教授は説明します。「このネットワークは、ヒトの細胞のがん化に普遍的な分子機構の一つである可能性があるため、がんを抑える薬の開発に有用な知見であると考えています」と続けます。
論文情報
The inner centromere-shugoshin network prevents chromosomal instability", Science (349) 1237-1240, doi:10.1126/science.aaa2655.
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