2015年12月25日金曜日

北京を超える大気汚染最悪の都市 年1万人超の死亡報告



拡大する常に混み合うニューデリーの道路。スモッグで周囲の建物もかすんでいる=22日、ニューデリー、貫洞欣寛撮影
 ニューデリーにあるバスターミナル近くの道路は18日、大気汚染でかすんでいた=AFP時事 PM2・5を含むスモッグで観光名所のインド門(中央)がかすんで見えた=22日、ニューデリー、貫洞欣寛撮影 次々と訪れる患者を診察するセングプタ医師=22日、ニューデリー、貫洞欣寛撮影
 大気汚染が「世界最悪」の都市は? 世界保健機関(WHO)によると、答えは、北京ではなくインドの首都ニューデリーだ。当局や裁判所が今月、マイカーの通行規制などを相次いで打ち出した。環境の専門家は歓迎するが、「性急すぎる」と批判も上がる。
 「故郷の村に住んでいた頃は、何ともなかった。ここは空気が悪すぎる」
 旅行会社に勤めるラムニワス・シャルマさん(28)は西部ラジャスタン州出身。3年前からニューデリーで暮らす。昨年からせきが止まらなくなり、呼吸器科クリニックに通う。
 クリニックのアミターブ・セングプタ医師(59)によると、患者の数は5年で約3倍になった。多くはぜんそくと慢性閉塞(へいそく)肺疾患。「その原因は、大気汚染」と言い、処方箋(せん)には「できればニューデリーから引っ越すこと」と書き添える。
 WHOが昨年発表した世界約1600都市の調査では、大気汚染と健康被害の原因となる微小粒子状物質(PM2・5)のニューデリーの年間平均値は、日本の基準の10倍を超える1立方メートルあたり153マイクログラムで、世界最悪だった。
 汚染の主な原因は、気温の下がる11~2月の間に、周辺の農村部で広範囲に行われる野焼きの煙や、年々増える自動車の排ガスだ。この時期は、調理や暖房などで木材や固形燃料の消費も増える。風が弱まり、空気が滞留しがちなのも要因とみられる。
 インド環境当局の調査では今月、PM2・5は市内のほとんどの地点で連日300マイクログラムを超える。政府系研究機関の報告では、汚染が原因でぜんそくや肺がん、心臓疾患などにかかった市民が年に1万~3万人死亡しているという。
 こんな状況に、デリー首都圏政府は4日、来年1月1日から平日の午前8時から12時間、市内の自家用車の通行を、ナンバーの末尾の偶数と奇数ごとに交互に制限すると発表した。まず、15日間試行するという。
 州政府に相当するデリー首都圏政府の首相は、「反汚職」を掲げる新興政党の庶民党(AAP)のケジリワル党首だ。自ら呼吸器の不調に苦しんでいるうえ、急進的な規制で党の人気アップを狙ったようだ。
 だが、公共交通機関が不十分で流しの四輪タクシーもほとんど来ないのが現状だ。「実行不可能」との批判が続き、規制差し止めを求める訴訟も起こされた。
 そこで、首都圏政府は18日、市内の小中高校を1月1~15日に休校にすると決めた。「スクールバスを路線バス用に提供させる」という。今度は、保護者らから「子供を犠牲にするのか」「16日以降も交通規制が続けばどうするのか」との声が上がっている。
 ログイン前の続き外国人学校は規定の適用外で、ニューデリー日本人学校は通常通り1月11日から授業を再開する予定。教室に空気清浄機を2台ずつ設置し、汚染の計測値がひどい日は体育の授業を屋内で行っている。
■ディーゼル新車登録規制、反発も
 もう一つの規制が、首都圏で排気量2リットル以上のディーゼル車の新車登録を来年3月末まで禁じる決定だ。販売は事実上できなくなる。最高裁判所が16日、1985年に提訴された市内の大気汚染対策を求める訴訟に関連して命じた。
 最高裁は同時に、製造から10年以上たったトラックの首都への乗り入れも禁じ、タクシーも来年3月からは圧縮天然ガス(CNG)車だけに乗り入れを許可するとの判断も示した。
 首都では、自家用車の登録台数264万台のうちディーゼル車が約2割を占める。燃費が良い高級ディーゼル車も人気を集め始めていただけに、独自動車大手メルセデス・ベンツは「ビジネス環境の不確実性を招く」と反発。日系メーカー関係者も「ディーゼル車の環境対応は進んでいる。年式の新旧を問わず禁じるのは説得力がない」と話す。
 一方、訴訟原告のマヘシュチャンドラ・メータ弁護士(69)は「社会が犠牲にすべきなのは、経済的な利益か、呼吸器疾患に苦しむ人々か、答えは明らかだ」と述べた。(ニューデリー=貫洞欣寛、シンガポール=都留悦史)
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■主な都市のPM2・5の年間平均濃度
・ニューデリー 153
・アブダビ    64
・北京      56
・ソウル     22
・バンコク    20
・ベルリン    20
・ロンドン    16
・ニューヨーク  14
・東京(千代田区)10
(WHOの2014年の統計から。単位はマイクログラム/立方メートル)
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 〈微小粒子状物質(PM2・5)〉 大気に浮遊する大きさ2・5マイクロメートル以下の微粒子。工場などのばい煙や自動車の排ガスなどが主な発生源で、肺の奥まで入りやすいためぜんそくや気管支炎などの呼吸器疾患に影響を与えるとされる。日本の環境基準は、1立方メートルあたり年平均15マイクログラム以下で、かつ1日平均35マイクログラム以下。

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