2015年11月11日水曜日

肺がん治療に前進もたらす「遺伝子異常退治」って何だ?


2015.11.11

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ
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 選手、監督の両方で偉大な功績を残し、サッカー界のレジェンドといわれるヨハン・クライフ氏(68=オランダ)が肺がんを患っていることが先日報じられた。

 国立がんセンターによれば、がんの予想死亡数は肺がんが1位。死亡数を減らすには、いかに早く発見し、的確な治療を行えるかがカギになる。注目を集めているのが、肺がんの遺伝子スクリーニングを行う「LC-SCRUM-Japan」だ。研究代表者である国立がん研究センター東病院呼吸器内科長・後藤功一医師に聞いた。

 肺がんは、「小細胞肺がん」と「非小細胞肺がん」の2つの型に分かれ、前者であれば抗がん剤による治療が主体となり、後者で比較的早期なら手術、進行期であれば抗がん剤というように、組織の型、進行度に応じた治療が行われる。

 しかし近年、「遺伝子の異常」を調べ、それをターゲットにした有効性の高い治療薬を選択できるようになってきた。

非小細胞肺がんは、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんに分けられ、一番頻度が高い腺がんの半数以上に「EFGR遺伝子」の異常が見られることが明らかになっている。ガイドラインでは、遺伝子検査でEFGR遺伝子変異があれば、効果を発揮することが確認されている3つの分子標的薬の中から治療薬を選択することが推奨されている。

 さらに、非小細胞肺がんの約5%はEML4-ALK融合遺伝子を有しており、現在、2種類の分子標的薬が効果を示す治療薬として国内で承認されている。

■全国200病院の患者が登録

 しかし、残された問題は、さらに頻度が低い遺伝子異常に対する治療だ。そのひとつである「RET融合遺伝子」は、肺がん全体の1%しかいない。

「がんセンターでも100人中1人しか該当せず、ある程度の人数を集めるには相当の期間が必要になります」

RET融合遺伝子を有する肺がんには、「バンデタニブ」という分子標的薬が効果を発揮することが基礎研究で確認されている。「バンデタニブ」は、過去に米国を中心に非小細胞肺がんを対象とした第3相試験(治験の3つの段階のうち、最終段階)が行われたが、遺伝子異常がある患者に対象を限った試験ではなかったため有効性が認められず、製薬会社が承認申請を取り下げた経緯がある薬だ。

 つまり、バンデタニブの有効性を証明するには、RET融合遺伝子を有する肺がん患者に限定した臨床試験が不可欠なのだ。

「有効性が高いと予測される薬があるのならば、患者へ治療薬を早く届けるために、その有効性を臨床試験で証明する必要があります。分子標的薬は対象が正しく限定できれば、非常に高い治療効果を発揮します。そういう思いから、全国の病院から遺伝子異常を有する患者をスクリーニングして、日本における治療薬の開発を推進するために、遺伝子スクリーニング組織をスタートさせたのです」

全国約200の病院から「LC-SCRUM-Japan」へ患者が登録され、遺伝子解析を行った結果、RET融合遺伝子を有する肺がん患者約20人が治験へ登録され、治験は無事に完了した。現在はバンデタニブの承認を目指してデータの解析が行われている。

「多数の遺伝子異常を一度に検索できる検査法も導入されています。遺伝子の検査というと過敏になる医療機関もありますが、現在検査している遺伝子の異常は親から子供に遺伝するようなものではないので、通常の血液検査と同様の扱いで問題ないと考えています」

 分子標的薬による肺がんの治療は、この数年でも大きな進歩を遂げている。後藤医師らの大規模な遺伝子スクリーニングによって、将来的には「予想死亡数1位」でなくなる可能性は高い。

▽分子標的薬とは=がん細胞の表面の遺伝子やタンパク質をターゲットに攻撃する抗がん剤

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