2014年9月、iPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った細胞が初めてヒトの患者に移植され、大きな話題となった。作ったのは網膜の細胞、網膜色素上皮シート。この再生医療の新たなステージを切り開いたのは、理化学研究所の髙橋政代プロジェクトリーダーだ。2015年9月8日には、米グラッドストーン研究所が再生医療の進展に寄与した研究者を対象に創設した「オガワ・ヤマナカ幹細胞賞」の第1回受賞者になることが決まった。
1例目の移植手術から1年が経ち、経過は良好であることが報告されたが、3年間の追跡調査が控え、最終的な結果が出るのにはまだ時間がかかる。緊張を強いられる研究が続くなか、髙橋博士は瞳をきらきらさせて、iPS細胞による治療について語ってくれた。
手術から1年、1例目の経過は順調
――加齢黄斑変性(解説1<4ページ目>)の70代の女性患者にiPS細胞から作った網膜色素上皮細胞のシートを移植する1例目の手術から、1年が経ちました。この間の経過や、見えてきた課題にはどんなものがありますか。
1例目の患者さんについては非常に順調で、すべてが想定どおりになっています。もちろん、がん化、腫瘍化はしていませんし、免疫抑制剤を使っていませんが拒絶反応も起きていません。手術前には眼球注射による治療を10回くらい続けていましたが、それでもだんだん視力が落ちていました。手術後は注射なしに矯正視力が安定しています。
実際のところ、矯正視力が安定したということに関しては、同時に行った、悪い血管(新生血管)などの病巣を取る手術の効果がいちばん大きい。移植した網膜色素上皮シートが効いているかどうかは現時点では分かりません。この治療は状態を安定させるためのものであり、拒絶反応もなく非常に安全に行えたということで目的を達したと考えています。
今回の1年目の判定では、定期的に行なっていた一連の眼科検査に加え、腫瘍ができていないか、全身の検査も行ないましたが異常は検出されませんでした。それから、移植したシートが1年後の今でも生着していることを確認しており、これは過去の研究からみれば非常に大きな前進と言えます。
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