2017年4月9日日曜日

薬害肝炎:救済2割のみ、来年1月法失効 被害者ら延長を



4/9(日) 06:50


病院の倉庫で患者の古い診療記録を調べる薬害肝炎弁護団のメンバー。カルテが電子化される前で、血液製剤投与の記録を見つけるには1枚ずつ目で追うしかない=埼玉県三郷市で2017年3月27日午後2時半、清水健二撮影
 血液製剤が原因でC型肝炎になった患者らを対象にした薬害肝炎救済法が、来年1月で施行10年となり失効する。これまでに約2200人が救済を受けたが、感染推計者数の2割強にとどまる。被害者を探すカルテ調査は今も続いており、関係者は「救える人を見捨てないで」と法律の期限延長を求めている。
 2008年1月に和解が成立した薬害肝炎訴訟は、止血に使われていた「フィブリノゲン」などの血液製剤投与で感染を広げた責任を、国と製薬会社が認め、議員立法による被害者救済法ができた。被害者はカルテや医師の証言などで投与経験を証明できれば、裁判所への提訴・和解を経て補償が受けられる。
 しかし、汚染された血液製剤は29万人以上に使われ、うち1万人以上が感染したとされるのに、被害が認定されたのは昨年5月末時点で2243人どまり。救済法は18年1月までに再延長されないと7000人以上の被害者が取り残される。
 弁護団によると、未救済の被害者は(1)カルテの廃棄などで投与を証明できない(2)投与を知らないか覚えていない--のどちらか。(1)は時間の経過とともに証明がより難しくなっているが、(2)は一部医療機関や弁護団が、当時のカルテの調査を続け、被害者の掘り起こしを進めている。
 東京在住の40代男性は2月上旬、高校生の時に手術を受けた四国の大学病院から突然、「フィブリノゲンを使った可能性がある」と連絡を受けた。退院後にC型肝炎の感染を知り、三十数年間、定期検査を受け続けていたという。男性は「病院からの連絡がなければ、血液製剤が原因で感染したとは分からなかった」と話す。今も全国で毎月数人が新たに提訴をしている。
 今通常国会で法改正の動きは本格化していない。元原告の浅倉美津子さん(66)は「救済に線引きをしない、という約束が忘れられつつある」と訴える。給付額は症状に応じて1200万~4000万円。完治した人も対象。問い合わせは薬害肝炎弁護団(東京は03・5698・8592)。【清水健二】
膨大なカルテと照合
 被害者の掘り起こしは、果てのない地道な作業だ。
 埼玉県三郷市の住宅街の古いプレハブ倉庫。100台近い棚には近くの「みさと健和病院」を退院した患者のカルテなどがびっしり並ぶ。薬害肝炎弁護団は3年前から週1回、病院の了解を得て血液製剤投与の記録が残っていないか調べている。33人の弁護士が費やした時間は延べ720時間に達する。
 同病院には、感染の危険がある血液製剤が1983~93年に55本納入されていた。調査は4分の3を終えたが投与が判明したのは4人で、本人に伝えられたのは1人。武田志穂弁護士は「見つかる可能性がある以上は調べるしかない」と語る。
 厚生労働省によると、主な感染原因となったフィブリノゲンは、現存する医療機関だけで5677施設に納入され、うち1269施設には当時の記録が残る。
 厚労省は被害者側からの医療機関への照会を進めたいとしている。だが、法律が失効すれば、病院の調査は「必要ない」と打ち切られる公算が大きい。

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