上下水道事業などで働く労働者の組合「全日本水道労働組合」の辻谷貴文・書記次長は「水道法改正そのものを一概に全否定するわけではありませんが、大きな問題があります」と語る。
◆「利益を出すこと」が目的の民間企業は、水道事業にはなじまない
「水道施設の老朽化や人材不足、災害時の対応など、水道事業の基盤強化は今回の水道法改正案の要であり、私たち現場の者も求めてきたことです。それ自体は良いことだと思いますが、改正案にある“官民連携の推進”については懸念しています。水道施設の運営権を民間企業に与えるという『コンセッション方式』が推進されるのですが、これは安価で安全な水を1秒たりとも絶やすことのないようにするという、日本の水道事業が担ってきた責任を損なうものになりかねません」(辻谷氏)
「コンセッション方式」とは、事業の運営権を民間企業に売り、その企業が事業を実施、水道料金を収入として企業が得るというもの。辻谷氏は「利益を出すことが最大の目的である民間企業は、水道事業とはなじまない」と言う。
「水道料金は、事業に経費がかかっても極力安くしないとなりませんし、人口減少で収益も下がり、多くの地域では赤字の事業です。そうなると、水道料金を値上げするか、水道管の維持・メンテナンスなどの必要経費も削ることになる。海外の事例では水道事業を任された民間企業が多額の経費を自治体に請求してきたという事例もあります。公営の水道事業から民営化して、成功したところはほとんどありません。フランスのパリ市のように、民営化したが再び公営化するという事例が相次いでいます」(辻谷氏)
◆民営化で失敗→再公営化という世界的な流れ
⇒【写真】はコチラ(大阪市の柴島浄水場)https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1318830
「トランスナショナル・インスティテュート」というNGOの調査によると、2002~2014年の間に、上下水道事業を再公営化した自治体は増え続けていて、世界で180もあるという。
「『成功事例』とされているイギリスのイングランドでの民営化も、サービス低下や漏水率の上昇、汚職の頻発など問題だらけで、世論調査では住民の70%が再公営化を望んでいる状況です。こうした例を見ても、コンセッション方式が失敗することは明らかだといえるでしょう」(同)
例えば、大阪市では耐用年数を超えた配管が5割を超える状況だという。他の自治体も耐震用の配管に変える必要がある。
「生活や命にかかわることなのに、国の政策の中で水道事業の優先順位は低い。今回の水道法改正を機に、多くの人々に日本の水道のあり方について考えていただければ……と思っています」(辻谷氏)
この「水道民営化」のほか、今国会では日本の食料自給に大きく関わる「種子法の廃止」や、原発の安全性や国民の被曝限度に関わる「原子力関連3法案の改正」など、大事な法案が目白押し。『週刊SPA!』4月18日発売号掲載の特集「森友国会の裏で進む[6つの重要法案]」では、森友学園問題の陰でほとんど報道されてこなかった、今国会の重要法案の中身についてリポートした。
取材・文/志葉 玲 写真/時事通信社
安心で安価な水が24時間いつでも供給されることが当たり前――そんな日本の水道事業が、現在国会でコッソリと審議されている「水道法改正」法案で大きく変わる可能性があるという。
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